夏の思い出
36 :あなたのうしろに名無しさんが・・・ :sage :03/09/30 00:01
①夏の思い出。
妹と一緒に怖いビデオを見ていた。
妹が怖がるのが可笑しくて僕はいつも悪さをしてしまう。
今見ているこのビデオも妹が好きな俳優の出ている映画だと偽って見せている。
妹は怖がったり驚いたりしても叫ぶ方ではなく、目をまん丸に見開いて口を大きく
開いて声になりかける前のかすれた声で「アーーーー」といふ。
僕は妹のその様子がとてもひょうきんに思えてならないのだ。
今見ているビデオは世間でも怖い怖いと評判の高い映画だ。
勿論、妹の好きな俳優は出てこない。
映画は半分を過ぎて山場を迎えて、恐怖場面も前半とは比べ物にならない。
妹の口は先ほどから開きっぱなしで、横で見ている僕は噴出すのを堪えるのに必死で
我慢しなければならないほどだ。
映画を見終わって妹の反応を見ようとおもひ顔を覗き込んだ。
妹の口は大きく開いたままで、汚らしくヨダレをたらしながらヒーヒーと息をしている。
あまりと言えばあまりの醜態だったので、
「おい、だらしが無いぞ。もう映画は終わったのだぞ。」
と怒鳴ったが一向に元に戻る気配はない。
叩いたり揺すったり、果ては最近発達してきた胸の小さなさくらんぼうをつねったりし
たが反応はない。
「コレは参った。どうしたものか・・」
僕は困り果てて博識な友人に電話をして、どうしたらよいのかを聞いてみた。
「叩いたりつねったりしても正気にもどらないのかい?」
「うん。困ったものだ。明日になると父上と母上が旅行から戻られる。いったいどんなお叱りをうけるのやら・・」
「う~ん、どうしたものだろう。・・そうだ!鼻の穴に山葵を入れてみると正気に戻るかも知れん。」
「そう思って僕も山葵を探したのだが生憎きらしていてね。ほかに代案はないか?」
「そうだな、君ヒロポンはやるのかね?もしもっていたら使ってみると効果があるぞ」
「生憎ヒロポンはやらない主義なのだ。まさか君はやっているのか?」
「いや、僕がヒロポンなどやるわけないではないか。ただの冗談だ。」
「こんな時に冗談とは、やめてくれたまへ。」
「ははは、悪かった。兎に角電話では埒が明かん。いまからそっちへ行くよ。」
「それは心強い。一人だとどうも不安が増して弱気になってしまう。」
「いやいや、例には及ばない。前々から君の妹さんは可愛らしいところがあると思っていたのだ。」
「なに!君は妹を手篭めにするつもりか!せめて後五年待ちたまへ!」
「ははは、コレもまた冗談だ。今から出るので寝ないで待っててくれたまへ。」
「冗談がきつすぎるぞ。酒でも用意してまっているから、早く来てくれたまへ。」
「分かった。それでは後ほど。」
さて、言った手間、この悪友に対してもてなしの準備をしなければならなくなったが酒はない。
近所の酒屋が閉まっていたので少し遠くにある店に行く羽目になってしまった。
店に着いたは良いが、ここの店主、相当な年齢でひどく耳が遠い。
友人の好みの酒の銘柄を伝へるのに小一時間かかってしまった。
家に戻ると友人の車が着いていた。
「やや、随分待たせてしまったのだろうか。申し訳ない」
そう思いつつ車を覗き込んだが友人は居なかった。
「さては家の中に入ったのだろうか、まさか本当に妹に手をだしては居まいか。」
僕が急いで家の中に入ると、案の定妹の隣に座って、慣れなれしく手などまわしていやがった。
「やい!動けない妹に非道いではないか!こらしめてやる!」
そう怒鳴りつけたが反応がない。
正面から睨みつけてやろうと回り込んだら、なんということか!
友人までもが口を大きく開いて目をまん丸にしているではないか。
「いったいどうしたのかね。兎に角妹から離れたまへ」
友人をソファーから多少乱暴にどけたが彼の口はまだ大きく開き、目は一点を見つめ瞬きすらしない。
ふと妹の方を見ると、やはり友人と同じ方向を見つめていた。
「一体二人は何を見ているのだ?」
僕も彼らと同じ方向を見てみた。
そこには壁中に無数の人の目玉がびっしりと張り付いており、
やはり僕も口をあんぐり明けて目を見開いて驚くしかなかったのである。