海老の養殖場

538 名前:530 :03/06/16 19:49
20年以上前の話だそうだ。 
知人から聞いた話なので、詳細は不明。 
まあ、あまり深く知りたいとも思えな種類の話だ。 

九州のとある離島。といっても、何という島かはすぐに 
分かるんだが、とりあえず伏せておく。 
その島に海老の養殖場が造られることになった。 
大規模なもので、工事期間は一年近く及んだ。 
その間、かなりの事故や人災が起きた。 
建設現場で働く人々も、これは何かあるなと思っていると、 
案の定多数の人骨らしきものが出てきた。 
それはかなり古いもので、埋葬もされておらず、打ち捨てられ 
朽ち果てたものだったらしい。 

何か歴史的な経緯があったのだろうが、出資者や建設会社は具体的 
な調査もせず、そのまま工事は続行された。 
ただし、不安に包まれた現場の空気を察して、ある徳の高い僧侶が招かれ、 
祈祷供養することになった。 
一昼夜にわたる祓い清めの最中、その僧侶は己の力不足と、加持による 
恒久的な慰霊を勧めたそうだ。曰く 
「ここには一族郎党を屠られた怨みの念が強くある。その一族の長を 
弔わねば、災いがなくなることはないでしょう」 
それを聞きつけた関係者は、やっぱりと思ったそうだ。 
地鎮祭の時、神主の振る榊がまっ二つに裂けたという。 

大幅に工事は遅れたものの建物は完成し、何とか養殖所の操業が始まった。 
あいかわらトラブル続きで、事業はうまくたちいかない。 
融資者の何人かは、説明のつかない災難に見舞われたりしたそうだ。 
そして養殖場の中では、いくつもの幽霊が徘徊した。 
事務所、冷凍工場、養殖池、至る場所、昼夜を問わず幽霊は出現した 
らしい。 
そこで働く従業員のうち、そういう現象に慣れる者もいた。 
手首に数珠を巻き、出くわしたら両手を合わせる。 
そんな光景があたりまえになった頃、やはり、どうしても 
馴染めぬ人たちもいた。 
内地から泊りがけで勤務する警備員は、特にそうだった。 

当時、その知人は地元でフリーターをしていた。 
ちょうど仕事が切れた頃、割のいい警備員のバイトを見つけた。 
配置先がその養殖場だったというわけだ。 
「幽霊を見たからって、何があるわけじゃない。ただ、気味悪い 
だけだと思ってた」 
知人の仕事は敷地内の巡回警備と、建物の入管チェックだったが、 
その他にも重要な仕事があった。 
それは、深夜に頻発する電源トラブルの復旧作業だった。 
海老を冷凍保存するための設備が、原因不明の停電を起こす。 
その際、設備の分電盤に行ってブレーカーを戻したり、制御盤の 
ヒューズを交換するというものだった。 
「でも気になってたよ。背筋がぞくっとくるのがさ。あれって 
人間の本能的な反射だろ。危険を感じた時なんかのさ」 

知人が冷凍工場のトラブルに対処する際、常に二人で行動した。 
そして、工場内のとある場所で、必ず二つの幽霊を目撃したそうだ。 
一つは、通路の曲がり角をすっと横切る姿。 
もう一つは、機械室の扉を開けるタイミングで、ぼーとあらわれる 
着物を着た男。 
「何度も遭遇して、場所もタイミングも分かってるんだけど、ぞぞっ 
てくるんだよな。俺の本能が危険を知らせてるのかと思ったね」 
同じバイトだった知人の同僚は、勤務して三日目に高熱を出し、 
耐え切れずに仕事をやめたそうだ。 
「そいつがいなくなってから、曲がり角の幽霊がぱったり現れなく 
なった。たぶん、幽霊がそいつに取り憑いて、一緒にどっか行った 
のかもしれないな」 
そんなことを考えていた知人は、ある時、気味の悪い妄想を払拭でき 
なくなったという。 
「つまり、幽霊が成仏するとしてさ・・・・誰かの死に便乗?みたいな 
ことするんじゃないかってね」 

知人はその考えに囚われて、仕事を続けられなくなったそうだ。 
「俺も馬鹿げた考えを否定したくて、いろいろ聞いて回ったんだが 
やっぱり、因縁はあるんだよ」 
その島は、鉄砲伝来の地であるということ。 
そして、刀狩や鉄砲禁止令によって、一つの技術者集団が、 
歴史から抹殺されたこと。 
知人は、何ら確証があるわけではないと断りをいれながら、 
自分が目にした幽霊の姿や振る舞いから、そんな風に想像したのだと 
語った。 
「技術大国の日本が、ロケットの打ち上げに失敗するだろ。 
そのたびに、何か非科学的な妄想にとらわれるな」 

そう言えば、あの島には衛星打ち上げの基地があった。 



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