光と影

286 名前:1/7 :03/02/22 23:09
先日、祖母の十三回忌がありました。祖母は私が3歳の時に亡くなったので、正直なところ 
余りよく覚えていませんでした。法要が済んだ3日後、学校から帰った私を待っていた母は 
祖母の話をしてくれました。両親にも許しを得ているので、これからその話を書きます。 

私は4歳のときに難病にも認定されているK病に罹りました。私は母の話があるまですっかり 
忘れていましたが、白っぽい部屋の天井をぼやーっと何時間も眺めていたような記憶が 
ありました。それとは別に部屋が段々薄暗くなっていき、頭がぼーっとしてくる夕方の 
暗い病室の記憶も蘇ってきました。思い出したことを夢中になっていた私は、目の前に 
座っている母が泣いているのに気が付きました。びっくりした私は話すのを止め、そのまま 
固くなっていました。目を真っ赤にした母は「ごめんね」と笑って私に謝ると、私を看病 
していたときの話を始めました。 

K病と診断された私は、S県立病院に入院しました。両親は初めての子供ということもあり 
とても心配したそうです。原因不明、数こそ多くないものの死亡するケースもあるそう 
なので無理もなかったと思います。母は病院に無理を言って着きっきりで看病してくれた 
そうです。父も仕事が終わるとまっすぐ病院へ向かうようにしていたそうです。入院した 
次の日から高熱が続き、発熱から5日目のことだそうです。担当の先生のお話を聞き終えた 
母は私のいる病室に戻ってきました。外は段々と暗くなりかけていたそうです。 

病室のドアを開けた母は、私のベッドに妙なことが起きているのに気が付きました。部屋の 
隅の影が段々伸びていきベッドに寝ている私を覆っていっていたのだそうです。「なにか 
おかしい!」と思っても足ががたがた震えるだけで一歩も動けなかったそうです。そう 
しているうちにも、影は何かもやもやした形になり足からお腹、お腹から胸と私にのしか 
かっていきました。母はがくがくふるえながら「仏様、ご先祖様、どうかこの子をお守り 
下さい」と必死なって祈ったそうです。 

黒いもやが私の首までのしかかろうとしたちょうどそのときに、急に私の胸の辺りが金色に 
光り始めたそうです。始めはぽつんとした金色の光は段々大きくなり私の体全体を覆うと 
部屋中が明るくなるほどの大きさになりました。それを見たときに母は「あぁ、良かった。 
この子は助かる」と思うと同時に、急に力が抜けてその場に座り込んでしまったそうです。 
しばらくして「はっ」と気が付くと廊下の電気が病室の中まで入ってきていました。 

母がそのまま私のそばを離れられずにいるうちに、仕事を終えた父が病室にやってきました。 
母は少し混乱しつつも、夕方私の身に起こったことを父に話しました。母の話を黙って 
聞いていた父は、母が話し終えると「今日はお義母さんの命日だったな」と言いました。 
その後、父と母は病室で肩を抱き合って泣いたそうです。 

入院してから20日ほどして、私は無事に退院することができました。両親は私が大きく 
なって当時のことが分かるようになったら私にも話そう、と決めていたそうです。父が 
前の晩、母に「明日N恵にあのときのことを話しておきなさい」と言ったのだそうです。 
私も話を聞き終えた後に涙が止まりませんでした。熱でぼやーっとしていた暗い記憶の中で、 
確かに暖かい光に抱かれるような心地よい記憶があったことを確かに思い出したのです。 
次の日曜日には、母と一緒にあらためて祖母の墓参りをしてこようと思っています。 

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