記憶法

 
342 :本当にあった怖い名無し[sage] :2009/11/21(土) 22:32:02 ID:O8spalmv0
高校2年の時、同じクラスになって仲良くなった奴がいるんだが、そいつは 
テストがあると決まって満点だった。クラスでナンバーワンの成績をほこる奴といえば 
がり勉で牛乳瓶の底みたいなメガネをかけてるのがお決まりだが、 
そいつは見た目結構オシャレで、学校の帰りなんか遊び歩いてた。 
夏休みが終わってちょっと経った頃、奴の家に泊まりにいったことがあった。 
一日二日でなく、一ヶ月ほどだ。俺はこの泊まってる間に、あわよくば 
奴の勉強方法を盗めたら…と考えていた。奴とつるむようになってから、俺の成績は 
日に日に悪くなっていたからだ。奴の遊ぶペースにあわせていれば当然だった。
奴の家に泊まってから二週間が過ぎた。しかし一向に奴は勉強をしない。 
学校が終わったらゲーセン、カラオケ、ボーリング、ファミレスなどで時間を潰し、 
家に帰ればゲームやったり、他のダチを呼んでだべったり。 
仕方ないから奴に真顔で尋ねた。お前どうやって成績をよくしてんだと。 
するといつものように奴は返す。一般ピーポーとは頭の出来が違うと。 
奴は勉強の話になるとこうやってのらりくらりとかわす。 
しかし今回ばかりは秘密を知りたい。俺は普段見せない深刻な面で奴に話した。 
成績がやばくて、このままだと留年になってしまう。必死で勉強してもいいが 
そうなると、これからはオマエと遊ぶこともできなくなると。

すると奴は、しばし悩んだあと言った。絶対誰にも言うなと。なんでも 
じいちゃんの、そのまたじいちゃんの、もういっちょじいちゃんあたりが研究者で 
人体に関する様々な研究をしていたそうだ。で、その先祖さまはあるとき 
とんでもない発見をしてしまったらしい。人体をある決まった法則で動かすと 
数秒間だけ記憶力を絶大にひきあげる方法、それが先祖の大発見だった。 
俺は、そんなバカな話があるかと笑った。しかし奴の目はマジだった。 
なんでも、似たような方法でトラウマは恐怖症を改善する治療法があるらしい。

俺はものはためしにと、やり方を教わって数学の教科書を手にとった。 
そして数秒間で1ページをおぼえようと…したのだができない。数秒じゃ 
数行しか読めない。これじゃどんなに記憶力がよくなっても意味ないじゃん。 
そう思った瞬間だった。

俺の頭の中にはさっきみたページがあった。文章や言葉で記憶 
しているんじゃなくて、ページを映像として頭の中に取り込んだような感じだった。 
今手元にある教科書のページが、そっくりそのまま頭の中にあるんだ。 
俺は驚いてすぐに次のページを開いて、同じ方法で記憶した。 
絶句して、ただただページを記憶することに躍起になってる俺を見て、 
奴は隣で声を挙げて笑っていた。そりゃ笑いたくもなるだろう。
誰もが何千、何万時間と人生の大事な時間を費やして必死に憶えるものを 
俺たちは数時間もあれば手に入れられるのだから。 
その日は徹夜して記憶した。おかげで朝になるころには、全教科の知識が 
完全に頭の中にコピーされていた。それから3年になっても俺と奴は 
つるんで遊び続けた。皆が大学受験に必死になってるときも、毎晩遊び歩いていた。 
だけど俺と奴の志望大学は東大だった。俺たちが通ってる高校から 
東大志望するやつなんて俺ら二人だけだった。もちろん確実に受かる自信はあった。

しかしこの選択が過ちだった。奴と並ぶ学力を有したことで、俺が奴と同じ力を 
手に入れたことが奴の親にバレてしまったんだ。ある日俺は奴の親に呼ばれ、 
奴の家に言った。奴もいるかと思ったがいなかった。奴の両親と俺だけ。 
長い木目のテーブルを挟んで向き合ってた。何を言われるのかと不安だったんだが、 
奴の母親が俺の隣に座り、お菓子をすすめるのでひとつふたつと食べていると 
途端に眠くなってソファにつっぷしてしまった。 
目覚めると夕刻で、部屋には俺以外誰もいなかった。しばらくして 
夕食をすすめられたのでごちそうになり、家に帰った。なんだったのだろう?

しかし体はどこも異常がない。今日あったことを疑問に思いつつ、机に座って 
教科書を開いた。まだ記憶してない箇所があったので、今日で一気に終わらせようと 
思ったのだ。しかし忘れていた。記憶する技術を思い出せなかった。 
もう何度も使用したんだ。忘れるはずがない。必死に思い出そうとする。だが思い浮かばない。 
そこで気付いた。今日俺が奴の家に呼ばれたのは、俺があの技術を忘れるようにするため
だったんだ。記憶力を抜群によくする方法を見つけているのなら、逆に記憶を消去する 
方法だって見つけていてもおかしくない。

俺はすぐさま奴に連絡をとった。もしあの技術を忘れてしまっても 
奴からまた聞き出せばいいだけだ。奴に電話をかけると、あわててどうした?と 
いつもののんきな声が聞こえてきた。それで少し落ち着いた俺は、冷静を装って 
あの技術のやり方について尋ねた。すると奴は、なんのことだ?と言ってくる。 
すぐにはわからなかったが、奴も親から記憶を操作されていたんだ。 
自分があの技術を持っていることを完全に忘れているようだった。
奴は忘れてしまっても、また時を置いて両親が教えてやればいい。 
だが俺はどうなる。あの技術を使って幸せな人生を送る予定だった俺の人生は。 
次の日、俺は学校帰りに奴の家に向かった。記憶を操作したことを問い詰めた。 
すると奴の両親は意外にもあっさりと認めた。 
だが、こうも言った。やろうと思えば息子と友達だという記憶も消せると。 
しかしそれをやらなかったのは、息子にとってあなたが大切な友人だからだと。 
記憶力と息子との友情、どっちが大切なのか。そう言われて俺は口ごもった。 
あの技術は欲しいが、そのために奴との関係を失うのは嫌だった。

あの技術があるから奴と友達なんじゃない。俺は奴の、いつも明るくてバカみたいな 
話に夢中になって笑えるところとか、実は涙もろくてフォレストガンプをハンカチなしじゃ 
みれないところとか、食パンにマーガリンを塗る必要があるのかをパンの会社に 
電話してきくところとか、とにかくいろんなところが好きなんだ。 
俺は奴の母親に、すいませんでしたと言って背を向けた。 
背後からありがとうって聞こえたような気もしたが、どうでもよかった。 
あれから数年、結局俺は奴と別の大学にすすむことになった。大学を卒業して無難な 
会社に勤めてる。結局凡人になっちまった。でも後悔はあまりしてない。

そういえばこの前、会社の帰りに電車に乗ってた時、向かいに大学生風の青年が座ってた。 
青年は六法全書を片手に、指をポキポキと鳴らし始めた。それから首をさわって体を… 
俺はその動きを見たあと、東大受験のパンフレットを探した。 
その後体の各部を触って…

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