黒いおかあさん

225 :本当にあった怖い名無し[sage] :2009/06/22(月) 11:47:10 ID:z3rLvtjR0
夏の夜でした。 
スイカを食べた後、花火をしようと外に出ました。 
満腹で蚊取り線香の匂いが心地よく虫の音も聞こえていました。 
弟や父は家の中。でも縁側のすぐ横の部屋でテレビに夢中でした。 
でも始めたらすぐに出てくるだろうと思っていました。
昼間の暑さは消え、心地よい空気でした。 
ろうそくに火をつけようと振り返ると母の顔が見えません。 
青い地に黄色いひまわりの柄のワンピースは浮かび上がって 
いるのですが、顔も手も足も闇に溶け込んだみたいに真っ黒です。 
母は明るい家を背にしているから逆光なのかなと思いました。 
「おかあさん」 
呼びかけに返事がありません。 
五メートルくらい離れているでしょうか。それ以上こちらに近寄ってもきません。

急に怖くなった私は走って母の横を通り抜け家に逃げ込み、玄関の引き戸を閉めました。
青いワンピースの黒い影がこちらに入ろうと近づいてきます。 
引き戸越しにもやはり肌色部分は見えず、墨汁で塗りつぶしたような黒。 
鍵を閉めて台所に逃げました。(父たちがいた部屋に行かなかったのは 
あの母の姿が覘くのが恐ろしかったから。

すぐに父が来ました。「どうしたん」と。 
何もしゃべれませんでした。しまったままの鍵が気になりましたがそのまま 
奥の部屋(いつも寝ていた場所ではない)で座布団を枕にして 
寝ました。頭の奥が妙に冷たくて、気持ち悪くて自分の意識をはやく 
なくしたくて必死で目を閉じてました。

次の日、父や母から鍵をかけたことを怒られたりはしませんでした。 
怖くて聞けなかったし、向こうからも何も聞いてきませんでした。 
夢かなとも思うんですが、やっぱり夢じゃないと思います。
それから2年か3年か後、私が小学校2年のとき、 
母は帝王切開のあと一度だけしか目を覚まさず、その日のうちに逝きました。 
20年たった今でもふとこの夏の夜のことを思い出します。 
これって一体何だったんでしょうか。似たような体験をした人がいたら 
話が聞きたいです。

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