寝言 - 島田秀平

この春から大学に通い始めたA子さん。
新しく一人暮らしも始め、サークルにも入り、楽しい学園生活を送っていました。
その中でも特に仲良くなった女の子の家にA子さんはある日泊まりに行ったんです。
翌朝起きたA子さんに友達は言いました。

「A子、あんたさ、昨日寝言をブツブツ言ってたよ」

「え、私寝言言ってたの?」

(今まで友達の家に行った時とか、皆で泊まってた時私は寝言を言っていて皆に笑われていたのかもしれない)

そう考えるとA子さんはどんどん恥ずかしくなっていったんです。
そこで自分は本当に寝言を言っているのか、とても気になって録音してみたくなったんです。

皆さんご存知かもしれませんが今は自分が寝ている時の音を録音できるアプリがあるんです。
そしてA子さんは寝る前にそれをセットして寝たんです。

(自分は本当に寝言を言っているんだろうか)

翌朝、録音していたアプリを再生してみました。
するとやっぱりブツブツと言っているんです。

(あ、私本当に寝言言っているんだ。
 一体私は何を言っているんだろう)

そう思って録音を聴き続けていると、その寝言には何だか違和感があるんです。
聴いていると「あーそうなんだー」とか、「いやごめんね、それは無理だよ」とか、「えー、でもなー」とか、
寝言というよりは、誰かと会話をしているようなんです。

(何これ、おかしい)

そう思ったA子さんは翌日もそのアプリで録音をしてみたんです。
起きて次の朝再生してみるとA子さんはぞっとしたそうです。
何とそこには自分の声の他に微かな誰か知らない人の声も録音されていたそうです。

『A子、また一緒に居たいよ』

(え、誰この人?)

A子さんは録音の中でその声に返事をしているんです。

「ごめん、もう無理だよ」

『また昔みたいに一緒に居たいよ』

また知らない人の声が続く。

それにまたA子さんは返事をしているんです。

(もしかしたら昨日、知らないうちに元カレから電話がかかってきて無意識に電話をしていたのかな)

そう思ってすぐに携帯電話を見たんです。
でも全く誰とも話した形跡がないんです。

(何これ、本当に怖いんだけど・・・)

A子さんはまたその日も録音をしてみたんです。
そうしたら今度はハッキリとした声で誰だか分からない声が

『ねぇA子、昔みたいに一緒に居たいよ』

と言っているのが入っていたんです。
A子さんはその声に対して

「ごめん、もう絶対に無理」

と、返事をしているんです。
そうしたら今度ははっきりとした声で

『じゃあそっちに迎えに行く』

そういう声が聴こえてそこで録音が切れていたそうなんです。

(うわ何これ、本当にこれやばい)

背筋が凍ったA子さんはすぐにその録音された携帯を持って霊能者のところへ持って行こうとしたんです。
しかしA子さんはその場所へ向かう途中で大きな事故にあってしまったんです。

幸い一命は取り留めたんですが、病院で目を覚ましたA子さん、手にあるものを握りしめていたそうです。
そしてそのあるものを見てA子さんはその声の主が誰だかハッキリとわかったそうです。
そのあるものというのは、小さな女の子の人形、人型をした携帯のストラップだったんです。

実はこのストラップというのは昔ある有名人が使っていたストラップなんです。
それでこのストラップがラジオ番組の景品になって、それがどうしても欲しかったA子さんは何百枚もハガキを書いてこのストラップを手に入れたんです。
その時は本当に嬉しくて肌身離さずそのストラップを持ち歩いて、その人形のストラップを会う人会う人に自慢していたんです。
ただ流行り廃りもあっていつの頃からかそのストラップが何処に行ったか分からなくなってしまったんです。

A子さんのその執着心と飽きっぽさ。
その心の落差が単なるストラップの人形に、怨念を持たせてしまったのでしょうか。

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