東京の郊外にあるトンネル - やるせなす中村豪

これは稲川さんとご一緒した時の話なんです。
ある番組で稲川さんと心霊スポットを回るという企画があったんです。
それでその一箇所、東京の郊外にあるトンネルに行ったんですね。

ロケで幽霊は居るのかといった内容で行っているんですけども、そのトンネルの手前に一軒ボロボロの廃屋があったんです。
それで話を聞いてみると昭和三十年くらいにそこに家族が住んでいて、そこにある日強盗が入って一家が惨殺されているという事件があったそうです。
その家族の女の子だけがトンネルに走って逃げて、それを強盗が追いかけて行って捕まえて、その女の子も殺して逃げていったという話なんです。
で、そこにそれから女の人の幽霊が出るようになったと。

これはどうなのかと、本当に出るのかと。
地元ではもうそこは旧トンネルとされていて、実際は使われていないトンネルだったんですけど、稲川さんとそこに行ったわけですよ。
日は落ちてもう時間は夜の十時、十一時くらいだったと思います。
辺りは真っ暗。
もう入るのも嫌な感じなんですよ。
そういうのを少しでも感じるような人であれば絶対に入りたくないというような場所なんです。
そこに稲川さんを先頭に入っていったんです。

で、それはアイドルの男の子たちの番組だったんですけど、稲川さんも「もうここはヤバイね」って言っているんです。
私も視線を感じて見たらトンネルの入口のところにおっさんが立っていたりね、まぁ勿論この世のものではないおじさんなんですけども。
その時に撮影していると段々とそのおじさんが近づいてきたんです。
それで稲川さんが色々と説明しながら歩いている時にそのおじさんと目があったんです。

僕は憑依体質で結構取り憑かれたりするタイプなんです。
だからまずいなぁと思っていたところに、丁度アイドルの男の子がそこに来たんです。
その瞬間、その男の子に入っちゃったんです。

撮影が進行していく中、その男の子は白目を剥いて、僕はたまたま入る瞬間を見ていたからその男の子が倒れる瞬間に抱きかかえました。
それでもう撮影が出来ないと。
もう一つ奥まで行こうという話だったんですけど、この男の子はとても奥まで行ける状態じゃないと。
でもスタッフさんの中にはやっぱりそういうことをやっていても、そういう霊的なことを信じていない方って結構居るんですよね。
だから「いやいや、行きましょう」とか言ってたりするんです。

俺はもうテレビに映らなくてもいいから、この子を何とかして外に連れ出さないと駄目だと。
だから淳二さんに中のことをやってもらって、僕たちは外に出ようと。
だけど辺りは出るにしても真っ暗ですよ。
それでADさんとバッテラを一本持って灯りを道ではなくその子に照らして、その子にもうこれ以上入らないようにしてトンネルを出たんです。

ロケバスで来てないから、とにかくロケバスを呼べと。
それでロケバスが来る間にトンネルの傍の外で待っていたんですけど、両端が山で木々が茂っているんです。
その至る所から視線を感じるんです。
その中で待っているんですけど、何十人もの視線がこちらを見ていると感じるんです。
まぁそれは野次馬のように僕らを見ている人もいれば、ここに来るんじゃねーよという視線を送っている人もいる。
ライトを一生懸命照らしながら、こっちに来んじゃねーぞと、必死に祈りながら居たんです。

ようやくロケバスが来たんですけど、男の子をロケバスに連れ込んで、それでその男の子はなんとか事なきを得たんです。
それでロケが終わって淳二さん達も戻ってきて、「いや、大変だったね」なんて話をしてました。

それまでも怖かったんですけど、本当に怖かったのはそこではなく、最後にロケが終わった時にスタッフさんが僕のところに来て

「実はあのトンネルは、女の人の霊が出るとか色々あるんですけど、つい先日死刑が執行された東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の犯人があのトンネルに潜伏していたんです」

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