湯川 - 島田秀平
僕が去年の夏に実際に体験した話です。 僕は実家が長野県なんです。 それで長野の方で情報番組をやっていまして、その番組の中で夏ということもあって、怪奇スポットや心霊スポットを巡る心霊番組をやろうということになったんです。 長野県の軽井沢にある山を上の方に登ったところにある橋というのが結構やばいんです。 場所はハッキリとは言えないんですけど、まぁ有名な場所です。 それで何でこの橋がやばいかというと、湯川という川の断崖絶壁にある百メートルくらい上にポツンと橋があるんです。 そういう風な立地柄、多くの人がそこで身投げをしているという自殺のスポットなんです。 それでここの場所というのは行ってもいいけども絶対にやってはいけないという二つのルールがあるんです。 一つは橋の途中で車のエンジンを止めてはいけないというもの。 もう一つは橋の向こう側に祠があるんですけど、この祠でお参りをしてはいけないというルールです。 祠があるのにお参りしてはいけないというのは変なルールなんですけど、その二つをすると呪われるということで、これは皆がしてはいけないというルールなんです。 それで番組ですから、深夜にそこに行ってそのやってはいけないことをやろうというロケだったんです。 じゃあそれをやろうかということで深夜にロケバスで現地に着いたんです。 行ってみると本当に橋の至る所に『車、駐停車禁止』とベタベタと貼ってあるんです。 それはきちんとした公共の看板なんです。 もうこの時点で何だかおかしいじゃないですか。 橋の手すりなんですけど、高さは一メートル五十センチくらいなんですけど、更にその上にギザギザと尖った剣先のような塀のような、柵のようなものがあるんです。 そして更にその上に棘々の付いた有刺鉄線があるんです。 それが四重にグルグルにされているんです。 (うわ、これはもう絶対に飛び越えられないようになっているんだな) それでその時にカメラマンが「うわっ!」と言ったんです。 「どうしたの?」と聞いて見てみると、明らかにその有刺鉄線の一部に補修した跡があるんです。 他はボロボロなのにそこだけ新しいんです。 (うわ、これは確実にここからイッてるじゃないか) そして外側には鉄の欄干があるんですけど、埃が一ミリくらい積もっているのに、そこだけ明らかに埃が無くて、まるで誰かがそこで滑ったかのようになっているんです。 それで下を除くと明らかに吸い込まれそうな雰囲気があって、(あー、だからここは駐停車禁止なんだな)と僕は思いました。 そして、ここは明らかに嫌な感じがするから早く奥の祠まで行ってお参りしてロケはやめようという話になったんです。 その祠というのはここで飛び込んだ方に何とか成仏して欲しい、という思いを込められている祠なので、“湯神”と書かれた神社なんです。 そこでお参りをしていたら、またカメラマンが「うわっ!」と声を上げるんです。 「どうしたんですか?」 「見てみろよ」 見てみると、祠のところに書かれた“湯神”なんですけど、古くなっているせいか、ところどころ消えているんですね。 “湯”という字のサンズイだけで、右側が消えかかっているんです。 “神”という字も右側が消えかかっていて、シメスヘンだけになっているんです。 つまり、サンズイとシメスヘンだけになっているんです。 カタカナで、“シネ”となっているんです。 それでもう皆怖くなってブワッと走って逃げて、ここはロケをやめようと。 あまりに怖かったんでロケバスの四方に盛り塩をしていたんですが、乗り込もうとした瞬間に、その盛り塩が崩されているんです。 「誰もいないよな!?」と皆が半狂乱になって、車の中に乗ったら車の中の至る所に塩が落ちているんです。 これは完全に幽霊が乗り込んできているぞ、と。 それで急遽軽井沢にあるお寺の有名な霊媒師の方にお祓いをしてもらおうということになったんです。 急いで霊媒師の方に夜中なんですがお願いすると、その霊媒師の方が「もう憑いている」って言うんです。 それで早くお祓いをしようということになったんです。 皆で必死になって本堂でお祓いをしてもらったんです。 三十分くらいしてようやくそのお寺の方が一息ついたので(あー、ようやく終わったんだ)と思ってその祈祷師さんに 「ありがとうございました。 これからまた仕事があるんで帰ってもいいですか」 と聞くと、「ハハハハ」と笑うんです。 「無理だよ、だってそこにまだ二十体も憑いているもの」 後日分かったんですけども、この湯川に身を投げた数というのが二十一体と言われているんです。 そこに居た人全員を連れてきてしまったという話です。 偶然なのか分かりませんけども、文字が“シネ”という部分だけ残っているのも、何か意味があるのかなって思うんですよね。 それでやっぱり辛い思いをしただけあって、その回の視聴率がまぁまぁ良かったんですよね。






