離人症の夢

200 :夢 ◆/s.FUYMIrk :2006/07/23(日) 00:49:15 ID:Ter4dLcwO

私は少し前から、離人症に陥ることが多くなりました。 
みなさんも経験したことがあるでしょう? 
世界が薄く膜を隔てた向こう側にあるような、全てが夢の中であるような、現実感の欠如。 
多くの人々のそれは幼少期で終わるようですが、私は違いました。 
ある時期から唐突に、私は正しく世界を認識出来なくなったのです。 
自分の手ですら、「ほんとう」だと信じられない。 
――えぇ、今も、です。 

そのある時期と重なるようにして、私は奇妙な夢を見るようになりました。 
どこか広い部屋の真ん中で、小さな女の子が人形を抱きながら泣いています。 
その女の子の皮膚も髪も透けるように白く、涙に濡れた瞳だけが赤く染まっています。 
その夢に恐怖は一切なく――、ただただ、悲しくなるような夢でした。 
その夢から目覚めた後、私はいつも泣いています。 
あの女の子が幸せでないのが、悲しくて。 

けれども最近、離人症の悪化と共に夢に変化が現れ始めました。 
女の子の涙が、少しずつ止まってきたのです。 
私は喜びました。 
たまらなく嬉しかった。 
あの子が抱えていた透明な悲しみが、空気へ消えてゆくのです。 
あぁ、それはなんて幸せでしょう! 
この現実感を失った世界のことなど、もう私にはどうでもよいのです。 

あの子が泣かなければ。 
あの子が幸せであれば。 
あの子が笑っていれば。 

そう、例えその笑顔が残酷なものであったとしても。 
私のこの瞳が、光を失いつつあったとしても――。  

前の話へ

次の話へ