赤子火鉢


654 :525[sage] :2006/01/14(土) 12:17:06 ID:FXPiSy2o0

家は昔質屋だった。と言ってもじいちゃんが17歳の頃までだから、私は話でしか知らないのだけど。
それで、結構面白い話を聞けた。

「赤子火鉢」
 喜一じいちゃんが学校から帰ると、店にうす汚い火鉢が置いてあった(客が売りに置いて行ったのかな?)
マジマジ見ていると「そいつは価値のある物なんださわんじゃねーぞ」と、おやじが奥から出て来た。

「えっ!?コレがぁ?」と眉を潜めるとおやじは「イワク付きなんだよ」と得意げに言うと喜一は慌てて火鉢から離れた。
イワク付きの物はウチは確かに多いが、いったい誰がそんな物を買うのかと聞くと、
「世の中変わった物を欲しがる悪趣味金持ちがいっぺぇいるんだよ、そう言った顧客は大事にしねぇとな…」と笑っていた。

イワクと言うのはこんな話しだった。
早くに事故で夫や家族を亡くした老婆は息子を異常に溺愛していた。
そんな家へ嫁が入り嫁姑戦争が始まった。
息子も頭を抱えていたが、1年もすると姑が病で倒れまた1年後には嫁の看病空しく亡くなってしまった。

悲しみに暮れた息子は、母を溺愛していたがため奇行走り、妻に3食毎日母のお骨を盛ったのだ。
息子はお骨を食べた人が、妊娠するとお骨の主が宿ると言う言い伝えを信じていた。 

何も知らない妻は子に恵まれ喜び元気な女の子を産んだ。
息子と嫁は大事に育てたが奇病に掛り、日に日に赤子は痩せて萎れて行った。

嫁の看病空しく赤子は1年でまるで小さな老婆の様な姿になり、
ある日突然「この女があたしを殺したんだよ」と声を上げた。

嫁は大声で叫び人殺しと罵る我が子を火鉢へ突っ込んだ、
ところが赤子は嫁の袖をしっかりと掴んで離さず嫁にまで火が回って来たのだ。
嫁は助けてと叫んだが、嫁を信じれ無かった夫は家から走り去ってしまった。

気がつけばすべてが燃えてしまった後、残ったのはこの火鉢だけだった…。
毋が大事にしていた火鉢なので形見にと思ったのですが、
毎夜毎夜火鉢からあの赤子がひょっこり顔を出すんです。私の名を呼びながら…と男は言った。

寺では無くウチへ持って来たのは、火事の後で少しでも金が入るのだろう。
足下を見ておやじは安値で買った。
 
「でもそんな呪われた火鉢なんか売って、客が呪われちゃったらどーすんだよ」と喜一が聞くと、

「俺だってプロだ何か憑いてりゃ払って売るさ、客が死んじまったら食ってけねぇからな!
それにこの火鉢は呪われてなんかいねーよ見た所タダの火鉢だ、化けて出て来
る何て男の後悔と罪悪感がで紡いだ幻だろうよ。呪われてるとすりゃぁ…」

それから数日後、新聞に奇声を上げ火事の中へ男が飛込み死亡と言う記事が乗った…
おやじはパラパラと店の帳簿(売買いした客の名前、住所を記した物)を見るとニヤっと笑い。
「店番頼む」と言うと、新聞と火鉢を片手に上等な下駄に履き替え出かけて行った。

きっと今日はごちそうだ、喜一が始めて複雑な気持ちと言う物を味わった話し。

前の話へ

次の話へ