妹の声

438 :童貞厠之助 :01/11/29 02:05 

推敲が苦手で幾分文章が長いですが、御容赦下さいませ。
私は10才の頃、家族で欧米のある都市に住んでいました。 
家はマンションの15階の一室です。 
ある休日の午後、両親が買い物に出かけると言って出ていきました。 
五歳下の妹は私の背後でセサミストリートを見ていました。 
私は日課のピアノの練習を始めました。

そのとき弾いていた曲にはよく間違えるパートがあり、 
何回もつっかかっているうちにイライラし出しました。 
私は後ろを振り返り、妹に「ちょっと音を下げて」と言いました。 
妹はテレビのすぐ前にあぐらをかいて座り、 
口をぽかんと開けたままテレビから目を離さずに「うーん」と、 
確かに答えました。 
しかしいつまでたっても音を下げる様子がないので、注意しようと振り返ったところ、 
妹はいつの間にかテレビの前からいなくなっていました。

トイレにでも行ったのかと思い、腹を立てながらテレビの音を自分で下げに行きました。 
そしてまた譜面に向かい、妹のことなど忘れて弾き鳴らしていると、 
しばらくして両親が買い物から帰ってきました。 
玄関に迎えに行くと、何故か「ただいまー」と言いながら妹が入ってきました。 
驚いて「○○ちゃん、いつの間に外に出たの」と聞くと、 
「何言ってるの、一緒に買い物に行ったじゃないの」と母親が言いました。 
妹は、買ってもらったお菓子を嬉しそうに私に自慢しました。
私たちが住んでいた場所はいわば新宿のど真ん中のような場所で、 
治安の悪さから、マンションはカード式ロックでガードマン体制完備でした。 
昼間でも小学生以下の子供だけで外を歩いてはいけないことになっており、 
私たちは一人で外出するという考えさえ持っていませんでした。 
第一、両親は地下駐車場から直接車で出ていくので、 
両親が嘘をついていたとしても(ありえませんが)、 
妹があとから追いかけられたはずがないのです。

未だに私が見た妹は誰だったのか気になっています。 
ただ、そのときテレビっ子かつ甘えん坊の妹は、 
セサミストリートを見るか両親についていくか、かなり迷っていたそうです。

前の話へ

次の話へ