鬼刃

543 名前:仕事に疲れてる俺 :03/01/12 08:04 
むかしむかし、弥彦とハチベイという木こりがいました。
二人はいつも山奥で木を切って暮らしておりました。

ある夜のこと、山小屋で弥彦はノコギリの手入れを
ハチベイはのんびりお酒を飲んでいた時の事です。
とんとん・・・
戸を叩く音がしました。こんな山奥でいったい誰だろうと
二人は顔を見合わせましたら
一人の男が入って来ました。

「すまんが、おらにも火を当たらせてくれんかね。」

ハチベイがいいよと答えると男は静かに小屋の中に入って来ました。
ハチベイが男に酒を勧めると、男は一杯だけくれと言います。
弥彦は酒を飲まず、いつも一人で飲んでいたハチベイはそうかそうかと
嬉しそうにもう一つ杯を出して男に酒をついでやしました。

男は酒を飲みながら弥彦に聞きます
「お前なにしてんだ?」
弥彦はノコギリを手入れする手を休めず、答えました。
「大事な道具のノコを手入れしとるんじゃ。」
弥彦は変な事を聞く男だなと思いながら付け加えました。
「ノコの付け根を見てみろ、一つだけ飛び出た刃があるじゃろう
 こりゃ鬼刃と言ってな。山で鬼が出てきたらこの刃で鬼を
 引き裂くんど!」 

男は黙って一杯だけ酒を飲むとまた山に帰って行きました。
不審に思った弥彦がハチベイに言いました。
「今の男、変じゃないか?」
ハチベイはのんびり答えます。
「な~に、山に入り込んでる猟師ぢゃろうよ、人寂しくなって来たんよ。」
そう言うとごろりと横になって寝てしまいました。 

次の晩もその次の晩も男は小屋にやって来て酒を一杯だけ飲むとどこかへ帰って行きます。
そんなある日、昼間、山で木を切っているとノコギリの鬼刃が突然、折れてしまいました。
弥彦が
「大事なノコが折れてしもうた、まだ陽はあかるいいけんこれから里に戻ってノコを直してくるわい。」
するとハチベイは
「別にオラは付いて行かんでもええじゃろう?オラは山小屋で酒飲んどる。」
と言います。弥彦が
「ハチベイは一緒にこんでもええが、鬼刃が折れるのは何か不吉じゃ今夜は誰も小屋に入れちゃならんど。」
そう何度もハチベイに念を押して人里に降りていったのでした。

次の日、里の鍛冶屋で鬼刃を直してもらった弥彦が
お土産の酒徳利をもって山小屋に帰って見ると・・・
山小屋の中は血の海になっていました。
勿論、どこにもハチベイの姿は見えません。
ただ、倒れた酒徳利と
杯が二つ土間に転がっていたのでした。 

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