自動販売機

62 名前:エログライダー :02/02/05 15:54
もうだいぶ前の話。ある夏の深夜、友人と二人でドライブした。
いつもの海沿いの国道を流していると、新しくできたバイパスを発見。
それは山道で、新しくできる造成地へと続くらしかった。
ちょっと行ってみるかということになり、三十分ほど運転したが、どうやら迷ったらしい。
引き返そうにも、途中から林道に入り込んでしまい、どこで分岐したのか分からない。
また深夜ということもあり、周囲は真っ暗。
それでも何とか舗装道路に出ることができた。
幸い照明灯もあり、ちょっとカーブになった場所で車を止めて、地図を見ることにした。
友人が地図を見ている間、俺は缶コーヒーを買おうと思った。
 後から考えると、非常に不思議なことだった。
つまり、車も通らない、人家もないような場所に、その自動販売機はポツンとあった。
道路灯があるくらいだから、電気は来ているのだろう。
その時はそれくらいしか考えなかった。 

 自動販売機は使用されているものだったが、ほとんどが売り切れだった。
コーヒーのボタンを押すと、赤いランプが点灯する。
喉が渇いていたので、とにかく販売中のボタンを押していった。
押すたんびに売り切れ表示。その間、二三分くらいだったろうか。
最後のボタンを押して、車にいる友人に声をかけた。
 二十メートル程の距離があった。姿が見えなかった。
急いで車に戻ると、車内はもぬけの殻だった。
あたりを見回して、大声で叫ぶが、自分の声だけが響き渡った。
 見当もつかず、車で待つことにした。
 不安だったので、カーラジオをつけたが、電波状態が悪く、受信しない。
カーステレオのカセットはスイッチがはいらない。
 そのうちラジオのノイズが急に大きくなった。
あっというまに耳が痛くなり、手でふさいでも音が頭に響いてくる。
 もう限界だ。脳がノイズをシャットダウンするかのように、俺は気を失った。

明け方、友人の声で目がさめた。
俺も何が起こったのか分からなかったが、友人もかなり混乱していた。
 少し落ち着いて、お互いに何が起こったか話した。
友人は、俺が自動販売機の前で苛つくのを見ていたそうだ。
そして、俺がどうやら最後のボタンを押したとき、信じられない光景を目撃したらしい。
 俺の姿が、パっと消えたそうだ。
驚いて車から出ようとしたら、ドアロックがかかり、やがてラジオが鳴り出した。
あの耳をつんざくような不快な音にやられ、あっという間に失神したらしい。
 「それより、ここどこだよ」
俺たちは山の中の空き地らしき場所にいた。
 もう道路はなかった。幅一車線もない獣道をたどって、ようやく車道に出た。
 二人とも、ほとんどしゃべらなかった。
「どうやら、俺ら五十キロも離れた場所にいたみるいだな」
 友人は道路標識を見ながらそういった。
「この峠、何か心霊スポットらしいな。タクシーの運転手から聞いたことある」
 俺は呆然と言った。
後日談はないです。ただ、友人はいまだにあの自動販売機を探してます。 

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