味が抜けてる

189:雷鳥一号◆zE.wmw4nYQ 04/09(月) 19:26 cOrCfpKK0 [sage] 
友達が泊まりに来た。いつぞやに床から抜けたモノを目撃した女性だ。 
例によって、飲んでいて遅くなったらしい。 
あの部屋、気持ち悪いとは思うけど、一人で寝る訳じゃないからイイか。 
そう思って彼女に電話してきたという。 
剛胆な女の知人は、やっぱり剛胆だ。 

遠慮なく上がり込んできた友達に、買い置きのお茶菓子を出して応対する。 
お茶を入れてから戻ってくると、友達は妙な顔をして菓子を頬張っていた。 
あれ古くなってた? まだ買ったばかりなんだけど。 
事実、私も姉ちゃんも変な味だと思わなかったし。 

ふるふると首を振って否定された。 
「いや古くなんかなってないよ。ただね、味が奇妙なの。 
 抜けてるっていうか、例えれば・・・」 

そこで言い淀んだので、何なの?と問い質す。 
「・・・仏前にお供えした物がね、丁度こんな風に味が抜けちゃうの。 
 私の母さんもそう言うの。 
 最も他の家族は、味の違いなんてわからん!って言うんだけどね」 

「あー、うちの祖母ちゃんもそんなこと言ってたよ、確か。 
 帰ってきた人が食べた後だからだろうって、そうも言ってた」 
いつの間にか帰ってきていた姉が、頷きながら別の菓子を頬張った。 

この家、仏壇なんかないじゃん。 
憮然とした彼女を尻目に、姉と友達は菓子をペロリと平らげていたそうだ。 

部屋を掃除していた姉が、ねぇねぇと聞いてきた。 
「やっぱりこの部屋ってさ、私たち以外に誰かが出入りしていると思わない?」 
何でそんな不気味なことを聞いてくるのですか、貴女は? 

「いやね、このところ毎朝、決まった物がテーブルの上に落ちているのよ。 
 置かれているのかもしれないけど。掃除は欠かしていないのにねー」 

そういって姉は、団栗を一個差し出してきた。 
「これがね、ここ数日、必ずテーブルの上にあるの。 
 私はそんなことしないし、あんたもしないよねー」 
裏山から何か下りてきてるのかな? 
「そうかもねー」 

「引っ越せ」 
それだけ口にした私に対し、姉妹は顔を見合わせて「予算がねー」とハモった。 

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