単眼オヤジ

480 名前: N.W 2005/06/27(月) 20:30:12 ID:Njoligy20
今は昔。 
頃は夏。遠縁の田舎へ連れて行ってもらった時の話。 

俺が黄色(小坊)2年、弟が幼稚園の時。 
場所は岐阜県。他県と接する山間の村で、今回はちょっと差し障りがあるから 
そこまでしか言えない。ごめん。 

〈その1〉 

俺たちは山の中腹にある神社の境内でセミ採りをしていた。近所の子供たちは 勝手知ったる場所だから、ずっと奥のへ散らばっている。 
いくら夏でも、日暮は何となくわかる。もうじき誰かが「帰ろうぜー」と言い、二言三言、言葉を交して家路を辿らねばならない。
まだ1匹も採れていない弟は、網を握りしめ、セミの声のする辺りを一生懸命睨んでいる。
俺に任せればすぐ2・3匹は採れるのに、どうしても自分で採りたいらしかった。 
俺たちの背後から、誰かの足音がした。 
隼人か圭一だろうと思ってふり向いた俺は驚いた。 
茶色いオヤジゾウリにグレーのズボン、青っぽいジャンパーを腕まくりしている、
短いごま塩頭の男がそこに立っていたのだが、そいつの目玉がたった1個。普通2個並んで存在しているはずの場所に、
10センチくらいのアーモンド型の目玉、そいつがたった1個しかなかったのだ。 
人見知りの激しい弟は、“知らない、変な大人”の出現に怯え、俺の背中に隠れるようにしっかりしがみついている。 
しかし、不思議と怖さは感じず、それより、なんだか懐かしい、昔引越していった近所の人に再会したような気持ちだった 

そして、驚いたのは俺たちだけではなかった。 
「おっ?」 
この単眼オヤジも俺たちを見て、何か思いがけないモノを見たような顔をしたのだ。 
何でコイツが驚くのか?訳がわからず混乱する俺たちに、単眼オヤジは優しく言った。 
「一緒に帰るか?」 
?????帰る???どこへ????? 
錯乱する俺に代って即答したのは弟だった。 
「イヤだ。まだ遊ぶ」 
目の前の怖さより、セミへの執着の方が勝ったらしい。 
単眼オヤジはあっさり「そうか」と頷き、神社に向って歩きかけたがふり返り、 
「早く帰らないと、ヒトに捕られるぞ。気を付けな」 
さも心配げにそう言って神社の裏へ姿を消した… 

俺たち兄弟が単眼オヤジに会ったのは、後にも先にもこれっきりだ。 
あの時、ヤツは一体どこへ俺たちを連れて帰ってくれようとしたのか。 
弟と時折その話をするが、いくら考えてもわからない。 
そして一番わからないのが、単眼オヤジは俺たちの事を何だと思って声をかけたのか。 
今、もし単眼オヤジに会えるなら、あの時の事を酒でも飲みながらじっくり話を聴いてみたい。そんな事を考えている。 

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