怪我の理由

442 名前:1/4 投稿日:02/12/27 08:38
俺の三つ上の兄貴は気合の入った硬派で鳴らしていた。 
市内の工業高校では柔道部の主将を務め、学校でも一目置かれる存在だった。 
そんなある日、夜十時くらいに病院から電話があった。 
兄貴がボコボコにされて病院に担ぎ込まれたらしい。 
両親と俺は病院に駆けつけた。 
兄貴は全身打撲でうんうん唸っていた。 
医者は傷害事件かもしれないから、警察に連絡した方がいいと 
言ったが、兄貴は朦朧としながらも拒否したそうだ。 
親も翌年に大学の推薦が決まっていたので、それは止めた。 

兄貴は一週間ほど入院して、自宅に戻ってきた。 
なぜ怪我したのか、誰にやられたのか、兄貴は一切話そうとしなかった。 
それから数年たち、俺は兄貴の住む東京へ遊びに行った。 
夜、六畳一間の部屋で布団を並べて寝ながら、俺と兄貴は話をした。 
思い出話から、あの夜の出来事に及んで、兄貴は初めて口を開いた。 
それは信じられない話だった。 

兄貴は部活をサボって、体育館の放送室で寝ていたそうだ。 
すっかり寝入ってしまい、目が覚めたのは夜だったという。 
当たりは真っ暗で、体育館の照明もブレーカーが切ってあった。 
それでも手探りでなんとか螺旋階段を下り、ステージの方に出た。 
体育館の出入り口には誘導灯があり、そこを目指して歩いていると、何かの気配を感じたらしい。 
しかし周囲を見回しても、暗闇で何も見えない。 
兄貴は大声で誰かいるのかと話し掛けたという。 
すると、背後からバスケットボールが飛んできたそうだ。 
俺ならそこで怖くなって逃げると思う。 
兄貴は違った。 

ボールが飛んできた方に向かって、この野郎とか喚きながら突進した。 
そこから先は無我夢中であまり覚えていないそうだ。 
感覚としては、相手は一人じゃなかったらしい。 
四方八方から、1個のボールが兄貴に向かって投げつけられた。 
逃げようとすると顔面にボールがぶつけられ、しゃがみ込むとまた飛んでくる。 
ほとんどリンチだった。 
どうにかドアの方まで辿り着くと、背後で笑い声がしたそうだ。 
そして拍手も。 
兄貴は当時のことを思い出したらしく、 
話し声が震えているようだった。 
俺は寝たふりをして、わざとイビキをかいた。

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