成長する夢

458 426 sage 2011/05/21(土) 16:03:35.69 ID:CqCIxrzt0
ううむ、上司の目があってなかなか投稿できなかったよ。 
それじゃ今度こそ話を始めます。 
ただこの話、以前に洒落怖スレに投稿してまとめに載った気がするんだけど、探しても見つからないんだよね。 
まあ、その時より詳しく記すから、許してほしい。 


私は、中学生のころから、ずっと似た類の夢を見続けていた。 
それは、最初唐突に猛烈な恐怖感から始まり、その恐怖に耐えていると、遠くから赤ん坊の声が聴こえてくる。 
そっと目を開くと、目の前に緑色の光のようなものが浮かんでいる。へその緒に似た捻じれた形。そこから赤ん坊の泣き声がするのだ。 
じっと見つめていると消えてゆき、泣き声も聴こえなくなる。 
時計を見れば、眠りについてからたった一時間しか経っていない。 

そんな夢をたまさか見る程度だったのが、中学生後半あたりになってから夢に変化が起こり始めた。 
最初に襲われる恐怖感は同じなのだが、その後に聴こえるのが何故か幼稚園ぐらいの子供が大勢ではしゃいでいる声なのである。 
そして必ず、目を開けると緑色の光が浮かんでいた。 

夢の変化は続いた。 
幼稚園の次は雑踏と人の声と足音。 
その次はどこかのオフィスの電話の音や応対する声。 
少しずつ、こんなことを考えるようになった。 

この夢は、成長しているのではないだろうか……? 

そうなると最初は悪夢だと思っていたのが、続きが楽しみになってきてしまうもので、 
「もしかしたら次は老人ホームの音だったりするのかなー」なんてことを考えていた。 
そして、次の夢はやってきた。 

女の笑う声。女が嘲り笑うような声が、ただ延々と聴こえる夢だった。 

目を開くと確かに緑の光は見えたが、いつもと様子の違う夢に私は首を傾げた。 
その1週間ほど後、またあの恐怖感が襲ってきて私は夢を見た。 
ごうごうと通り過ぎる風の音。それはどこか高い場所から、落ちる夢だった。 
そして…それからぱったりと「成長する夢」を見ることは無くなった。 

成長夢を見なくなって数ヶ月が過ぎた頃、私はネットの知り合いにそのことを相談した。 
この人物、仮にKとするが、自称陰陽師の家系とやらで、私にとっての「師匠シリーズ」の「師匠」のような存在だった。 
私の話を一通り聴くと、Kはふうん、と煙草をひとふかしして、「お前、それは別の世界のもう一人のお前だわ」と言う。 
話をざっと纏めるとこういうことだった。 

私が生まれる時、寺の住職だか霊能力者だかから 
「この子は普通に生活する分には支障になる程度の力を持って生れてきます。」と言われた。 
両親は話し合い、その力を『生まれてくる前に』封印する儀式を行ったのだという。 
(正直こんな荒唐無稽な話を信じられるかwと思ったが、両親にそれらしい事を尋ねると何故か話をはぐらかされるんだよねw) 

「ところが、その力を奪っていった奴が居る。それが『もう一人のお前』だ」 
「『もう一人のお前』ってのは、お前がこの世に生まれることによって、代わりに生まれることができなかった魂なんだよ。 
それで、仕返しみたいにお前の力を奪っていって、それを持ったまま、こことは違う別の世界で生まれた。 
けど魂同士は繋がりあってるから、そいつの人生をお前は夢で見たってことだな」 

「ただ…そいつは、もう死んでる」 
「早くね!?(私)」 
「異世界とこっちの世界とではな、時間の流れが違うんだよ。だからそいつはもう生まれて、死んでる」 
私はここへ来てようやく『成長する夢』の続きを見なくなった原因を悟った。最後の夢はどうだったか。風の中落ちる夢であったのだから。 
「…まあそういうわけで、そいつが死んだから今現在その力は宙ぶらりん、引き取り手の無いまま異空間を漂ってる。お前の見たっていう緑色の光はその力な。 
どうする?ちょっと修行すれば、その力を手に入れることも可能だぞ?」 
なんてことを言われたが、この日は流石に頭を整理しきれず「考えておきます」とだけ返事した。 
別れる前に、「そういえば、夢を見る前に決まって凄い恐怖を感じたんですけど、あれって何ですか?」と訊ねると、Kはさも事も無さげな顔をしてこう言い放った。 
「人間、知らんモンを目にする時はそりゃあ恐怖するだろ」 
言葉少なすぎて解釈に困るが、要するに異世界に関わるものは誰しも初めて目にするものであるため、原始的な恐怖を感じるのだということだった。 

Kと別れたその日の夜。私は本当に久しぶりに、あの夢を見ることとなった。 
ただ、恐怖感までは同じなのだが、その先に聞こえてくるはずの「音」は一切聞こえず、まるで残り滓でしかないような空虚な夢だった。 
そこで、そろそろと眼を開けてみると… 
(なんだこりゃ!?) 
目の前に浮かんでいたのは、緑色に光る古代の壁画のような模様だったのだ。 
アステカ文明とか、ナウシカの鳥の人なんかの絵を思い浮かべるとそれっぽい気がするw 
手を伸ばしてはみたが、当然異空間にあるという力なんぞ掴むことは出来なかった。 

結局その力を手に入れるか否かの答えを出す前に、Kは音信不通となり(多分警察にパクられたような気がするw)、話も文字通り宙ぶらりんとなってしまったが。 
今ならその答えは出せる。そんな力は要らないのだ。 
過ぎた力を持てば、それは破滅しか呼ばないだろう。あの異世界のもう一人の私の最期のように。 


終わり。 
最後に、この話は創作ではなく実話です。

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