湯張り

211 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ sage New! 2012/11/13(火) 18:29:34.30 ID:qFVvFi5t0
知り合いの話。 

彼の家は、山の中腹にある農家なのだが、過去に奇妙な事が起こっていたという。 
一日の作業を終えて帰ってくると、その日家には誰も居なかった筈なのに、 
風呂釜に熱い湯が張られているということが、何度となくあったのだ。 

「浮浪者でも入り込んだか」とも疑ったが、風呂の中は別に汚れてはいない。 
調べてみたところ、家に置いてあった薪の数も、一本たりとも減ってはいなかった。 
まだ便利な給湯器などが無かった時代で、一体誰が、どうやって湯を沸かしたのか、 
それがまったくわからない。 

初めの頃は気味が悪くて湯を入れ替えていたが、段々と勿体なく思うようになり、 
終には湯が張ってあると、ありがたくそれに浸かるようになったという。 

家をリフォームした際に給湯器を新しく設置したのだが、残念ながらそれ以降、 
湯が独りでに沸くことはなくなったのだそうだ。 
「灯油給湯器とはいえ、薪も使えるタイプなんだけどな。 
 湯張りをしていた誰かさんは、機械の類いはお気に召さなかったらしいよ」 
苦笑しながら、彼はこの話をしてくれた。

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