地面に転がっていた黒い何か

877 名前:1/2 :03/04/11 15:26
短くて、地味な話。 

帰省時、実家に帰っていた頃。連休も初日の夕暮れ時。 
その日休みだったSに付合って貰い、実家での服を買ったその帰り。 
助手席に座ってSと適当な話をしていた。ふと、車道に目を落とすと黒い何かが転がっている。 
「あ。」 
「・・あ。」 
己が声を上げ、ほんの少し遅れてSの声がして、車が大きく蛇行した。 
それを避けるつもりだったのだろう。 
同時に、ぐわらん、という感じで嫌に大きく車が跳ねた。 
何かに乗り上げたように。 
「うをっ。」 
横Gに軽く踏ん張って体勢を戻す。 
素早く振り返って、離れるその黒い物を確認しようとした。 
俗に言う黄昏時で物の明暗がつきがたくなっており、それは上手く見る事が出来なかった。 
捻って背後に乗り出していた体を戻しつつ。 
「いやあ。今のは、何かヤバかったんちゃうか?」 
と、Sを見るとSが左腕をだらり、と下げ、何かに引きずられるように身体を曲げながら、 
右腕一本で車を運転している。 
「・・・今ので、何か、落ちたか?。己がひろお」 
「いや。何にも、落ちてない・・・・・・。」 
一応言ってみただけの言葉には予想通りの返事が返ってきた。 
車がゆらり、と左に曲がる。 
「・・・・・・っとぉ。」 
直ぐに、ハンドルが切られ、戻った。 
Sを見ると、もはやハンドルにふせるようにして運転している。 
左に左にと、小刻みに車が揺れた。 
「く・・・・・おっちゃん(己の事)、ゴメン、悪いけど、左肩、叩いてくれッ」 
「左肩?」 
「そう、強く、バシッ、と」 
「・・・・・・気合入れてのが、良いんだろな」 
「お願い。」 

そんなことはやった事は無かったが、Sの言わんとしている事は解った。 
TVなどで良く、お祓いする時などに見る、あの叩き方を真似てみる。 
ひゅっ、と小さく息を詰めて、強めに左肩を三度叩いた。 

バン、バン、バン 

叩き終わると、同時にSは背筋を伸ばし、ふぅ、と息を吐いた。 
左腕を軽く振りながら、ハンドルを握り直して車を安定させる。 
「大丈夫か?・・・・・・・・・猫?」 
「いや・・・・・わかんない。ホントは何も無かったかも。」 
「何かに乗り上げたよな?」 
「猫に乗り上げた程度じゃ、あんなに大きく揺れないと思わん?」 
「・・・・・・経験が無いからワカラン。」 
「おっちゃんが、声を上げたから、何?、と思って見たら、すぐ、ああ、ヤバイ、って分かってさ。 
 せめて踏まない様に、って避けたつもりだったんだけどなぁ。 
 あれだけ、避けたのに駄目だったし。」 
「・・・・・・・・・追い越し車線に突っ込んでたな。」 
「いやあ、そしたら、案の定。左肩から先が動かないわ、身体と車は左側に引っ張られるわ。」 
「それでフラフラしてたか」 
「うん。・・・多分、人じゃあ、無いと思うんだけど。あの高さだと、そう、かなぁ・・・・・・・・。」 
Sは最後に己が敢えて確認しなかったことをさらりと言った。 
仕方が無いので追求してみると、ここまで引っ張られたりしたのは始めてだが、”揺れる”ことは良くあるらしい。 
「・・・・・・犬とか猫だと、もうちょっと揺れが小さいけどね。」 
だから今のは、犬、猫じゃないと思う。Sは自分の前言を吟味するように、最後にそう付け加えた。 

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