四谷の自宅に出た幽霊 - 西村知美

私が芸能界へデビューしたばかりの頃の話なんですが…

故郷の山口県から東京へ出てきて、
事務所の勧めもあって四谷に住む事になったんです。

四谷というと四谷怪談が有名だった事もあって、私は少し怖かったんです。
その時の気持ちっていうのは、何かの胸騒ぎだったのかもしれません。

私がその部屋に引っ越しをしてすぐ、カーテンを開けてベランダに出てみると、
ベランダの下が一面お墓だったんです。
私はそれが怖くて、住んでいる間はずっとカーテンを閉めていました。

そんなある日─
大阪でコンサートが行われる前日の夜。

目を閉じても、歌詞やコンサートの段取りが浮かんできて、なかなか眠る事が出来なかったんです。
時計を見ると、夜中の二時半をこえていました。

(もう寝なきゃ…)
そう思って、私は全ての電気を消して、布団に潜り込みました。

そうすると、なんだか気配を感じるんですよね。
私が寝ていたベッドっていうのは、左が壁で、その横にシングルベッドっていう位置なんですが…
見ると右側におじいさんが座っているんです。

部屋を真っ暗にしているのに、なんで見えるかっていうと、
そのおじいさんの周りは光ってオーラのようになっていて、ハッキリと見えるんです。
手を伸ばせば触れられる位の距離に、おじいさんがいるんです。

よく見ると頭は坊主で、白い着物を着ていて…
お墓の方向を見て、ジーっとしているんです。

その時の私は、怖いというよりも、あまりにハッキリと見えるから、
(この人は、どこから入ってきたんだろう?)
というような、不思議な気持ちでした。

それで私は、(とりあえず声をかけてみよう)と声をかけたんです。
すると、今まで黙っていたそのおじいさんが、私のほうをブワッと向いて…

その瞬間私は怖くなって、壁のほうに態勢をかえようとしたんです。
その途端、おじいさんが私の上に瞬間移動をして、乗っかってきたんです。

私は恐怖で、必死に動こうとするんですが、体は金縛りで動けなくなっていました。
(どうしよう…どうしよう…どうしよう…)
パニックになっていたら、そのおじいさんと目があったんです。

おじいさんは私と目があった時、すごい形相で、
『おまえを道連れにしてやる』って言ったんです。

怖くて仕方なかったんですが、気持ちだけはしっかり持たなきゃと思って、
私は必死に心の中で(助けて!居なくなって!どいて!)って念じていました。

そしたら、すっと体が軽くなって、おじいさんがいなくなったんです。

今でもおじいさんの顔がハッキリと残って、忘れる事が出来ない出来事でした。

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