お札 - 桜金造
私の友達が掃除のアルバイトをしているんですよ。
つまりアパートとかマンションとかビルのオフィスとかをですね、そこに居た人が引っ越した時に一人でそこに行って掃除をするというバイトです。
その友人から聞いた話なんですが、その日は珍しく一軒家だったって言うんです。
それも古くて気味の悪い家だったそうですよ。
まぁ引っ越した後だから荷物もなくて、誰もいなくて、ガランとしていてね。
(何だか気味の悪い家だなぁ。
さっさと済ませて帰ろう)
そう思いながら一人で掃除をしていて、帰ろうと思ってフッと見ると古い柱があって、
そこにその家の子どもが貼ったんですかね、アニメのキャラクターのシールがベタベタと貼ってあったそうです。
(これはどうしたらいいのかな)
自分の携帯で上司に電話を掛けて、それをどうしたらいいか聞いたんです。
そうしたら上司が
「そういうものもちゃんとキレイにしてよ。
シールやなんかは全部剥がしといて。
キレイにしておいてよ、じゃあね」
(参ったなぁ)
ああいうものって皆さんも経験有ると思うですけど、なかなか剥がれないんですよね。
それでそいつも水とか洗剤を掛けてたわしで擦ったりするんですけど、なかなか取れないから爪で擦ったりもしてね。
一枚一枚やっとの思いで綺麗に剥がして、やれやれと思ってフッと見ると、その柱と天井の丁度間くらいのところに何かが貼ってある。
(あれ、こんなところにもシールかな)
でもそれはシールじゃないんですね。
お札みたいなものなんです。
それも今まで見たこともないような、例えば◯◯神社とか、そういったものが書いてあるお札じゃなくて、
なにか黒いもので人の形のようなものを書いているようにも見えるし、何かこう、鬼とか悪魔のようなそういったものにも見える。
そんなものが描かれていて、周りを炎で囲んでいるような。
(これもやっぱり剥がすのかな)
そう思って手を伸ばしてお札に触れると、簡単に剥がれたそうです。
その時に電話の音が鳴った。
プルルルルル プルルルルル
(あれ、自分の携帯かな)
そう思ったんですが、携帯じゃないんですね。
(携帯じゃない、何処で鳴っているんだろ)
フッとあたりを見ると、床の上に無造作に置いてあった、その家の物らしい古い電話機、それが鳴っているんです。
プルルルルル プルルルルル
(おかしいな、コードは抜いているはずなのに)
コードはクルクルと巻かれている。
間違いなくその電話が鳴っている。
どうしようかなと思ったんですが受話器を取ると、「あ、もしもし」とさっきの上司の声がする。
「あのね、さっき言い忘れたんだけどさ、シールは何かは剥がしてもいいんだけど、お札は剥がしちゃいけないよ」
「えっ?」
「だから、さっき言い忘れたんだけど、シールや何かは剥がしてもいいんだけど、お札は剥がしちゃ駄目だから」
「あの、すみません、今剥がしちゃったんですけど」
「えぇ?」
「いや、すみません。
知らなかったんで、今剥がしちゃったんですけど」
「何で剥がすんだよ。
何で剥がしたんだよ。
何で剥がしたんだよ!」
段々とその声は上司の声じゃなくなってきた。
何で剥がしたんだよ。
何で剥がしたんだよ!
何で剥がしたんだよ!
何 で 剥 が し た ん だ よ