山道にて - 木原浩勝
あるテレビクルーがテレビ取材で山道を走っていた時の話なんです。
何処をどう迷ったのか少し道を外れてしまったようで、ここは何処だろうということになったんです。
山道なので住所が分かるような目的物も無く、道は走っているんですが、これは何処に続く道なんだろうという状態なんです。
「これ、何処に行くんですかね?」
「でもこれは真っ直ぐ行くしか無いだろう。
方向は合っているんだから何処かには続いているはずだよ」
そうやって真っ直ぐ道を進んでいくと赤い棒のようなものがゆらゆらと揺れているのが見えたんです。
あれ何だろうと思いながら車がドンドン近づいていくと道路工事のガードマンの人が立っていたんです。
赤いライト棒をゆらゆらと揺らしているんですね。
あの人に道を聞いてみようということで車を寄せて声をかけたんです。
「あの、すみません」
「どうかしましたか?」
「あの、トンネルを抜けて道に出たいんですけども」
「あぁそれならこの道を真っ直ぐ行くとトンネルがありますから、それを抜けるといいですよ」
「あぁよかった、道合っていたんだ。
ありがとうございます」
「いえいえ、お気をつけて」
教えてもらった道をまた真っ直ぐ行くとトンネルが見えてきたんです。
「あぁよかった、トンネル見えてきた」
「確かトンネル抜けたら道に出るんだよね」
「おい何かこのトンネル古いし狭くない?
本当にここで合ってるのかよ。
地図を見ると新道と旧道があるから、これ旧道のほうじゃないの?」
トンネルの中には暴走族か何かが書いたのでしょうか、無数の落書きがしてあってとても暗いんです。
「おいこれやっぱ何か違うんじゃない?」
そう言いながらものの二、三十メートル走ったところで車を止めたんです。
少し前には看板や鉄パイプが中を塞いでいて、通れないようになっているんです。
「何だよこれ、旧道じゃねーかよ。
通れねーじゃん。
こんなんで工事のガードマンなんて務まんのかよ」
皆口々に文句を言いながらも車をバックさせてトンネルを出ていったんです。
トンネルを出て何度も何度も切り替えして元きた道を戻っていくと、向こうの方で赤い棒を振っているガードマンが見えたんです。
「おい、あのガードマンに一言文句言おうぜ」
それで車を寄せて「あのねあんたね」と声をかけようとしたら、それはさっきのガードマンではなく道路工事用の板人形だったんです。
それは人じゃなかったんですね。