挨拶 - 好井まさお

ある日芸人仲間五人くらいで同期の家で鍋をしようということになったんです。
その鍋をする同期の家というのは結構有名な商店街を一本入ったところにあって、行ってみたらものすごくおんぼろアパートなんです。

まず一階は共同玄関。
共同玄関の脇には汚い共同トイレがあって、そいつの部屋は一階の一番奥なんですけど、なんだか湿気がすごい。
部屋に入ると汚い四畳半なんです。

でもみんなで気にせずに鍋をしていたんです。
夜に集まって朝まで鍋をしていたんですけど、寝る前にトイレに行きたいなと思ってトイレに行ったんです。

部屋を出てトイレに行くと玄関のドアが開いているんですよ。
そしてそこの通りに黄色いパーカーを着た二十才くらいのお兄ちゃんが周りをキョロキョロとしているんです。
それで見ていたらその人と目が合ってしまったんです。
目が合った瞬間その男の人が「おはようございます」とめっちゃ笑顔で挨拶してきたんです。

僕もおはようございますと返したんですが、そしたらその人はまた違う方向を向いてウロウロし始めたんです。
なんだろうなと思ったんですけど、近くに吉本の養成所があったんで、もしかしたら後輩かなと思って、トイレに行って部屋に戻ったんです。

そしたら入れ違いに同期の芸人がトイレの方向に行きまして、何分かして帰ってきたんですが、帰ってきた瞬間に「ちょっと聞いて」と言って話し始めたんです。

「あのさ、玄関の前でぴょんぴょんと飛び跳ねてる奴がいて、そいつが目が合った瞬間に元気よく『おはようございます』と言われた」

「あぁそれ俺も言われたわ。
 まぁ、養成所近くにあるし、後輩やろ」

ということで話は落ち着いたんです。

そのまま寝たんですけど、寝てたら同期に起こされまして。
そいつが「テレビを見て」と言うんですよ。

それで寝ぼけながらテレビを見ていたら、今居る同期の前の道が映っているんです。
そしたらそのニュースの画面の右上に

 「白昼堂々! 商店街に通り魔出現! 多数負傷!」

と書いているんです。
それで目撃者のおばちゃんが「あの黄色いパーカーを着た青年が奇声を上げながら次々刺していったんですよ」
その後ニュースキャスターがパッと映って、「なお、その青年は『挨拶を返さなかったから刺した』とのこと」と言っていたんです。

だから僕ともう一人は挨拶をしていなかったら両方共刺されていたんですよね。



千原ジュニア

テリーさんも会ったんですって。
事務所の前にすごい暗いやつがいて、でも放送作家の弟子に来る奴って暗い奴が多いから、てっきりそういう人だと思って

「なんだよお前暗い顔して。
 今新年会をしているから、お前も上がっていけよ」

弟子志願の人だと思って入れたんですって。
そしたらしばらく飲んでたらその人が居なくなってて、その時は居なくなったなぁくらいの話だったんですが、
そしたら二日後に六本木ヒルズにその人が通り魔で暴れて人のことを刺したんですって。

その時に邪険にしていたらテリーさんもきっと刺されていたんですよね。
その犯人が「テリーさんだけは優しくしてくれた」ってことでテリーさんは事情聴取にも呼ばれたんですって。

前の話へ

次の話へ