ゾンデ - 安曇潤平
皆さんあまり注目されていないかもしれませんが、特に日本というのは山の怪談が多いんですね。 日本というのは独特な島国で、日本海と太平洋に挟まれているので、日本のアルプスというのは、真ん中に扇のように立っているわけですよ。 だから両方の海の風がアルプスでぶつかり合って、ものすごく複雑な天気になるので、ヨーロッパの山に比べてよっぽど遭難が多いんですね。 一度に多くの人が遭難に合うケースでは、雪崩が一番多いです。 それで私はとても雨男なんですけど、山に行こうと思って高速道路に乗ろうとすると、 後ろから端から降ってきて、町並みが停電並に見えなくなっていく、それぐらいの雨男なんです。 それでその時も結局山に登れなくて、山の麓でやっている昔からの宿に泊まったんですね。 今からする話はこの宿の親父から聴いた話です。 ちょっと皆さん聴いたことがないと思うんですけど、ゾンデという山の道具があるんです。 ゾンデというのは一体何かというと、物干し竿をもっと細くしたような長い棒のことです。 それでこの道具は何に使うかというと、遭難したという情報があると、そのゾンデを雪の中に刺して埋まっていないか探すためのものです。 ある時雪崩が起きて五人が埋まってしまった。 それで同じタイミングで他のところでも事故があって、警察はみんなそちらの事故に行ってしまっているということで、 なんとか地元の人で救助をしてくれないかという要請だったんですね。 その時にどうやって埋まっている人を探すかというと、一度上に登って、みんなが並列に歩きながらそのゾンデを刺しながら下っていくんです。 その作業をしていたら、五人のうち四人は見つかったんです。 それでみんな生きていたんです。 けれど、何回その作業をしていても、どうしても一人だけ見つからない。 雪崩っていうのは上から一定方向に落ちてくるので、大体何処に埋まっているか検討がつきますよね。 だからみんなでその辺りをゾンデで刺していくんですが、どうしても人が埋まっている感触が見つからない。 そしたらその話を話してくれた親父や、なんとなくそのルートから外れた岩の付け根が気になったって言うんです。 雪崩のルートからいってその岩の方にいくはずがないんだけども、どうしても気になったんで列から離れてそこに行ってみたそうです。 それで何回か刺していたら感触があったんです。 「いたぞー!」って皆を呼んで掘ったんですけど、その人だけ亡くなっていたんです。 それでその親父はすごく後悔が残ったことがあって、その親父はゾンデ使いに慣れていたので自信があったんですね。 けれどその時は慌ててしまい、その埋まっている人の額に傷をつけてしまった。 亡骸にですよね、それがいまだに気になっているっていうんです。 それからはもっとゾンデの扱いに慎重になって、今はご高齢で引退と言われている歳なんですけど、昔はゾンデの名人と言われるくらいの人だったんです。 それでその話を聞きながら、もっと面白い話はないのと聴いたら、 実はその二、三年後にその宿のお客さんを連れて、案内をしながら上の山小屋まで連れて行ったことがあるそうなんです。 他にお客さんもいなかったので、そこの親父は快く連れて行ったわけなんですね。 その時は天気もよく、何事も無くお客さんを山小屋に連れていくことができたんです。 それで次の日は案内してまた山を降りないといけないので、近くにいるテント場に自分はテントを張って、 山小屋の親父と仲が良かったので、山小屋の親父とテント場で飲んでいたんですね。 親父が帰ってテントの中で仰向けで寝ていると、急に足音がザッザッザと聴こえてくるんです。 結構飲んでいたんで、もう遅い時間ですよ。 普通人が歩いてきたら、自分は仰向けに寝ているんで、大体水平に音が聴こえてくるじゃないですか。 けれどその足音は自分より少し高いあたりから聴こえてくる気がするんですね。 そしてその足音が自分に近づいてくる。 なんだろうと思っていると、急に金縛りにあってしまったんです。 そのうちに、その足音が自分のテントの真上で止まったんです。 そしてシーンとしばらくなったと思ったら、急にズボッと音がして、テントに穴が空いてゾンデが出てきた。 初めはお腹のところにボンときた。 それで自分に当たる直前で止まった。 ソンデが引き抜かれるとまた他のところからズボンと穴が空いて、今度はゾンデが胸のところに来た。 それがピタリと自分に当たるか当たらないかあたりのところで止まるんです。 次は喉元。 次は頭だと思い、金縛りよ解けて動け動けともがいていたら、頭のところにズボッとゾンデが来て、気を失ってしまったんです。 次の朝起きたら、テントに穴なんか開いていなかった。 夢なのかなと思って額を触ったら、血が出ていたんですって。 それで親父さんが僕に言うんですよ。 金縛りにあってゾンデをテントから刺されている途中、空いている穴から刺している男の顔が見えたと。 それで僕は親父さんに、じゃあそれは親父さんが額を傷つけてしまった遭難者の顔だったんですかと聞いたんです。 そしたら親父さんが「いや違う、もっとよく知っているやつだ」と言うんです。 「それはね、俺だったんだよ」と親父さんは言っていました。 だからいつの間にか自分が遭難した側になっていたんですね。






