コジョウイケトンネル - 師匠シリーズ

631 :コジョウイケトンネル:03/04/30 20:52

師匠には見えて僕には見えないことがしばしばあった。 

夏前ごろ、オカルト道の師匠に連れられて、コジョウイケトンネルに深夜ドライブを敢行した。 
コジョウイケトンネルは隣のK市にある有名スポットで、近辺で5指に入る名所だ。 
K市にはなぜか異様に心霊スポットが多い。 
道々師匠が見所を説明してくれた。 
「コジョウイケトンネルはマジで出るぞ。手前の電話ボックスもヤバイが、トンネル内では入りこんでくるからな」
入りこんでくるという噂は聞いたことがあった。 
「特に3人乗りが危ない。一つだけ座席をあけていると、そこに乗ってくる」 
僕は猛烈に嫌な予感がした。 
師匠の運転席の隣にはぬいぐるみが座っていた。 
僕は後部座席で一人観念した。 
「乗せる気ですね」
トンネルが見えてきた。 

手前の電話ボックスとやらには何も見えなかったが、トンネル内に入るとさすがに空気が違う。 
思ったより暗くて、僕はキョロキョロ周囲を見まわした。 
少し進んだだけでこれは出ると確信する。耳鳴りがするのだ。
僕は右側に座ろうか左側に座ろうか迷って、真ん中あたりでもぞもぞしていた。 
右側の対抗車線からくるか、左の壁側からくるのか。 
ドキドキしていると、いきなり師匠が叫んだ。 
「ぶっ殺すぞコラァッァ!!!」 
僕が言われたのかと縮みあがった。 
「頭下げろ、触られるな」 
耳鳴りがすごい。しかし何も見えない。 
慌てて頭を下げるが、見えない手がすり抜けたかと思うと心臓に悪い。 
「逃げるなァ!!逃げたらもう一回殺す!」 

師匠が啖呵を切るのは何度か見たが、これほど壮絶なのは初めてだった。 
「おい、逃がすな、はやく写真とれ」 
心霊写真用に僕がカメラを預かっていたのだ。 
しかし・・・
「どっちっスか」 
「はやく、右の窓際」 
「見えませんッ」 
「タクシーの帽子!見えるだろ。逃げるなコラァ!殺すぞ」 
「見えません!」 
ちっと師匠は舌打ちして前を向き直った。
ブレーキ掛ける気だ・・・
俺は真っ青になって、めったやたらにシャッターを切った。 
トンネルを出た時には生きた心地がしなかった。

後日、現像された写真を見せてもらうと、そこには窓とそのむこうのトンネル内壁のランプが写っていた。 
師匠は不機嫌そうに言った。
「俺から見て右の窓だった」
よく見ると、窓に映るカメラを構えた僕の肩の後ろにうっすらと、
タクシー帽を被った初老の男の怯えた顔が写っていた。

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