初めての心霊体験

ゾッとする名無しさん@特選怖い話:2015/09/10 16:30 ID:.MvL392w
はじめまして。
霊感ゼロだったはずの自分が、初めて心霊体験をした話をさせてください。
少し長くなってしまいますが、お付き合いいただけると嬉しいです。

私はよくある、ホラー映画とか本当にあった怖い話とか、そういうオカルトやホラーが好きだけど、そういうものは一切見たことも感じたこともない人間でした。
今思えば、体験したことがないからこそ、楽しんで見れていたのだと思います。

七月の中頃。
上司から、自宅の近くで花火大会があり、うちのマンションからきれいに花火が見えるから遊びにおいで、と誘われました。
最初はもちろん断りました。上司の自宅に、しかも、夜遅い時間に行くのは、抵抗があったためです。
しかし、同じように誘われた同期の二人(ここではAとBとさせてもらいます)が、その誘いに乗り気になり、詳しい日程や時間の調整まで始めてしまいました。
さらに、上司からしきりに、自宅に来ないか、AもBも来るから問題ない、と誘われてしまい、断りにくい状況を作られてしまいました。

思えば、このとき、意図的に断れないようにされていたのでは、と思います。

当日、午後五時くらいにAとBと三人で、上司に指定された駅で待ち合わせ。
その後、迎えに来た上司と歩いて、上司のマンションへと向かいました。
駅の周りにはスーパーやマンションが多い、いわゆるベッドタウンといわれる駅で、
ここには書けませんが、駅名だけであればそこそこ有名な場所でした。
歩いて五分くらいの、駅の近くのマンションの最上階。さらに角部屋。そこが、上司の家でした。

高校生の息子さんに出迎えられ(奥さんはどうやら外出中のようでした)、中に入ると、すぐ両脇に扉が二つ。
それから、お手洗いとお風呂場への入り口。
廊下を進むと対面キッチンのある広いリビングダイニングがありました。
いわゆるごく一般的な2LDKの家です。
また上司がきれい好きということもあるせいか、部屋はまるでモデルルームのようにピカピカで、家具が統一されていました。

突き当りには広めのベランダがあり、その向こうに、先ほど私たちが歩いてきた駅の明かりが見えます。
上司が言うには、どうやらこの窓から花火が見えるようです。
AとBは夜景がきれいだの、部屋がきれいだの上司と話していました。
息子さんは見知らぬ人たちがたくさん来たせいか、始終黙って、そうしてなぜかベランダをじっと見ていました。
つられて私もベランダを見て、驚きました。

なぜなら、ベランダが異常なほどに薄暗かったためです。

確かに、夜の時間帯で、ベランダに電灯などないためにそう感じたのかもしれません。
けれど、その時はっきりと「ここは怖い」と思ったのです。
さらに言えば、そのベランダには枯れかけた花なのか、野菜なのかわからない葉っぱの植わったプランターが置いてあったり。
上司のゴルフセットがなぜか横倒しでおいてあったり。
薄汚れた砂場遊び用のバケツとシャベルがおいてあったり。
散らかったベランダだけが、明るくきれいな部屋から切り離されていたのです。

ベランダが何だか恐ろしいもののように見えた私は、後ろに後ずさり。
そうして、気づきました。
窓ガラスの下の方。
ちょうど足首の高さのあたり。

べったりと小さな手の痕が、引っ掻いたような傷が、窓の横幅いっぱいに、無数についていることに。

そしてさらに恐ろしいことに。
その手形は、私の目の前で、ひとつ。またひとつと、増えていくのです。

人って本当に怖いって感じると息が止まるんですね。
うっ、うっ、と喉に息が詰まりました。
あまりの恐怖に、さすがに上司に聞いてみようと後ろを振り返えると、すでにAとBとビールを飲み始めた上司と目があいました。
目が笑っていない、ってよく小説でよくありますよね。
上司は、まさにその目をしていました。
AとBと楽しそうに笑いながら、なあお前もこっちに来いよと言いながら、だけど目はしっかりと私を睨みつけているのです。

先ほどの現象と、上司の様子があまりに恐ろしく、私は体調が悪い、帰らせてほしいと何とか伝えました。
(後ろの窓はとても怖くて振り返れませんでした)
私の表情があまりに必死だったからでしょう。AもBも帰った方がいい、と口々に言いました。
私はそれとなく二人にも一緒に帰らないかと伝えたのですが、二人はよほど花火が楽しみだったのでしょう。
自分たちは問題ない、お前は顔色が悪いから帰れ、と口をそろえて言いました。
上司もそんなAとBの手前、残れとは言いにくかったのでしょう。
気を付けて帰れよ、と私に言いました。

転がるように廊下に出て、あわてて靴を履いていると、いつの間にか後ろに息子さんが立っていました。
無表情のまま、ベランダをじっと見つめていたように、私を見つめていました。
そうして。

「手形しか見えてなくてよかったですね」

息子さんの言葉に、はじかれるように部屋から飛び出していました。
足が、腕が、情けないほど震えていました。
エレベーターの下りボタンを連打していました。


そのあとは、よくあるような、この事件をきっかけに心霊現象に多く立ち会うようになった、なんてことはなく。
また何も見えないまま、感じないまま、毎日を過ごしています。
(ただあの日以来、ホラー映画などを見るのが苦手になってしまいましたが)

あの後、AとBは普通に花火を見て、帰宅をしたそうです。
(怖い話によくあるような、けがをしたり、呪われたりなんてことはありませんでした)
上司もあの日私を睨んだことに一切触れず、いつも通り接してきています。
まるであの出来事は夢だったのではないか、と思うほどです。

息子さんはベランダを見ていたとき、いったい何を見ていたのでしょうか。
上司は、あそこに何かいると知っていて、あえて私たちを呼んだのでしょうか。
そもそも、あの手形は、いったい、何なのでしょうか。

謎が解けないままではありますが、これで私の体験は終わりです。
怖い話はたくさん読んでいましたが、まさか自分が体験するなんて夢にも思っていませんでした。
あんな怖い思いをまたするなら、このまま見えないまま、感じないままの人間でい続けたいです。

長くなってしまいましたが、読んでいただき、ありがとうございました。

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