化け猫

228 :猫侍1/5 ◆/8nBjf3PZU :2006/08/12(土) 03:21:57 ID:o3B3bO970 

 これは、ウチで飼っているキヌ(13歳メス)っていう老猫の話。 

 俺はいつも自室で寝ている。 
畳の四畳半の部屋で、布団を敷いて寝ている訳だが部屋の場所が家の鬼門なんだ。 
そして俺が寝ようとしていると大抵、彼女(キヌ)が部屋にきて、俺に寄り添うか腹の上に乗ってきて、丸まるんだ。 
なんていうか可愛い。 

 コトが起こったのは二年ほど前の冬。久々にオナった後横になって暫くしたときだった。 
部屋の戸(引き戸)がカリカリという音を立てた。 
俺は「あぁ、またきたな。」と思い俺は戸を開けてやると彼女が居た。 
しかしその日は様子がおかしかった。 
いつもなら開けたらすぐに俺の部屋に入ってきて、俺が横になるのを待つのにそのときはじっとして部屋に入ろうとしない。 
「変だな」と俺は思った次の瞬間………、 

 「今日は玄関で寝ようや。」 

 補足しておくが、ウチは二階建ての日本家屋。 
ここでは玄関としているがちゃんとした部屋であり、上がり口に障子を隔てた所である。 
因みに四方は玄関から、北に壁を隔てて二階への階段、東に襖を隔てて仏壇のある座敷、 
南に障子を隔ててガラス張りの戸を隔てて庭の見える板の間に緑の絨毯を敷いた縁側、 
そして残る西が先ほどの上がり口という作りだ。 

 話を戻すが、そう声がした。 紛れもなく、今現在俺の目の前に居る小動物の口から。 
俺は唖然とした。 当たり前だ、彼女は猫だ。人語を話す訳がない。 
そのとき俺の頭に一つの言葉がよぎった。 

 『齢、十をこえた猫は化ける』 

まさかとは思った。 『うちの娘に限ってそれは……』なんて不良少年の両親のような考えを持った。 
それに今日日『化け猫』はないだろう。 非科学的すぎる。 
だが彼女が11歳だというのも事実。 
ならば真実を見てやろうと思い、愛用している模擬刀(これが無いと中々寝就けない)を持ち、 
彼女の後に付いて階段を降り玄関で横になった。 彼女は俺の腹の上で寝た。 

 寝てからどれほど経ったか、ビデオデッキのアナログ時計を見ると夜中の二時半頃だった。 
「あぁ、中途半端に目が覚めたな。」なんて思ってふと腹の上を見ると、 
暗闇の中彼女の双眸が俺を見つめ爛々と光っていた。 
「あっ、来たな。」とか俺が思っているといきなり彼女が「フッッッッ!!!」といって、 
俺を見つめたまま戦闘態勢で構えている。 「動くな」と言わんばかりに。 

 事実俺は動けなかった。 金縛りかと思ったが違った。 単に彼女の迫力に押されただけみたいだった。 
次の瞬間、西と東の襖がガタガタと音を立てた。 
「あぁ、ヤバイ殺られる。 やっぱり化けてたか。」と俺は思った。 
だが彼女の行動は俺の思ってたものと違った。 

 彼女は俺の腹から飛び降り、西の襖を戦闘態勢のまま睨み「フッッッ!!!」と威嚇していた。 
不思議に思ってた俺の耳に言葉が聞こえてきた。 


 『イ……エ…サ……ロ……、イケニエヲ ササゲロッッ!!!』 

さっき聞いた彼女と思しき声とは違う別の声が障子の向こうから聞こえた。 
声は続けてこう言ってきた。 

 『ニエヲ モラウコトハ キマッテイタ 
   ジャマヲ スルナ チクショウ フゼイガ』 

彼女はなおも威嚇しつづけている。 

 『ヨカロウ ナラバ キサマヲ ソノ オトコノカワリニ イタダク。』 

俺はヤバイと思った、だって俺の代わりに彼女が生贄になるような感じだ。 
俺は咄嗟に体を起こし刀を抜いて構え、「彼女に触れるなと念じた。」 

 そのとき『グッッ!!!』という唸り声が聞こえた。 
障子の向こうの奴が放った声だった。 

 『ヨモヤ マモノガ ニエダッタトハ 
   マァイイ ヒダリメハ イタダイタ チモ イタダイタ 
   ケイヤクハ ハタシテ モラッタ ショウショウ クチオシイガ 
   ケイヤクハ マモラネバ ナラン』 

彼がそう言った後障子の振動が南に移りガラスの割れる音と共に怪異は収まった。 

 俺は膝を折り、しりもちを付いた。 気が抜けた感じだった。 
『はっ』として彼女を見た。 倒れていた。 
そこで頭がくらっとして気を失った。  
薄れゆく意識の中でビデオの時計を見ると五時手前だった。 

 ここからは後日談だが、一言でいうと大変だった。 

 だって俺とキヌが二人で倒れてるものだから家族はスゲー焦ったらしい。 
その上俺は愛刀を抜いて右手で握り締めている。 
だが一番家族がビビったのは、俺の右肩甲骨の辺りにイボがあって、 
そこから血が止め処無くジワジワ溢れていたことだ。 
起されたとき確かに背中がヌルっとして何だと思い触ったら、手が真っ赤っか。 
しかし全く痛みが無いから性質が悪い。 
その後、ガーゼとバンドエードとテーピングで何とか蓋をして、開院待って病院へ。 
『背部血管腫』っていう血管が肥大する症状らしく、弾けて出血したんだと。 
んで血が皮も破って出血したらしい。 

 俺よりも彼女の方が大変だった。 
左目が濁って視力を失ったらしい。 まさに持って行かれたんだ、俺の代わりに……。 

 その日の夜、俺は酷く落ち込んだ。 
そのとき彼女が来て、「助けてくれて、ありがとう。」って聞こえた。 
俺はその日泣きながら寝た。 

 以前、この話を以前霊が見える詳しい奴に話したことがあったのだが、 
話し終わってから「俺の家を見たい。」と言い出したので連れてきたことがある。 
謎はそのときに色々と解けた。 

 付いたときのソイツの第一声が「うわぁ」だった。 
なんでもソイツが言うには俺の家は昔、密教(黒系)の祭壇があった場所らしく、 
建てるときに北東の柿の木の辺りに石を積んで何かを鎮めたらしい。 
俺がそれを四、五歳の頃崩してすぐ戻したと言ったらそれが原因と言われた。 
「でもすぐに戻したのは良かったな。」とも言われた。 
ソイツ曰く、見たところそれは石自体が力のあるモノらしく力の無い者でも邪物を封じれるらしい。 
俺がすぐに石を戻さなかったら、 
もっと早いうちに彼女の片目の光と俺の血以上のモノを持って行かれてたらしい。 

 後、ソイツは彼女が化けたとも言っていた。 
俺もそうは思っていたが確信が持てた。 
「でもキヌちゃんは悪いモノではないよ。 
  寧ろオマエにとっては第二の守護霊みたいなもんだぞ。」ともいわれた。 

 因みに彼女は今、俺が掻いてる胡坐の中でゴロゴロいってる。

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