ループ

58 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2015/05/23(土) 18:30:38.27 ID:xoXqerud0.net
初投稿です。読みにくかったらごめんなさい。 

これはまだ僕が京都で大学生だった時の話です。 
当時バンドを組んでいた僕は、週末の夜になるとバンドメンバーとスタジオに入り練習をしていました。 
その日練習が終わったのは夜の一時。季節は夏で、京都特有のけだるい、のしかかるような蒸し暑い夜でした。 
そのスタジオは家から遠く、いつもはバスで帰るのですが、時間的にもうバスも走っていなかったので仕方なくタクシーを拾いました。 
背中に背負ったギターケースをおろし、あー、無駄な出費だなぁ、次のライブのノルマもきついのになあ、なんて思いながらタクシーに乗り込みました。 
50代くらいのどこにでもいそうなおじさんが運転手でした。ガンガンに冷房の効いた車内が汗をかいた体にありがたかったのを覚えています。 

「○○通りまで」と、行き先を告げると運転手さんが話しかけてきました。 

「○○通り(行き先)に住んでるってことは○大の学生さん?」 
「はい、そうです」 
「あの近く、ボーリング場があるでしょう?私ボーリングがすきでねぇ、社のボーリング大会でも結構いいとこまで行ったんですよ」 
「へえ、そうなんですか」 

正直そのときは練習のあとで疲れていたので話したくはなかったのですが、気さくに笑った目元がミラー越しに見えたので、
話し好きのいい運転手さんなんだなと思い、しばらく相槌を打っていました。 
そうして話し込んでいると、妙な違和感を感じはじめました。

こちらの返答とまったく関係のない話が急に出てきたり、なんとなく話の前後が合っていないのです。 
まぁ、そういう話し方をする人はたまにいるよなぁ、と気にも留めていませんでした。 
が、しばらくすると、 
「・・・ところで○○通りに住んでるってことはもしかして○大の学生さん?」 
「あ、はい」 
「あの近く、ボーリング場ありますよね?私好きなんですよ。こう見えてうまいんですよ」 
「・・・」 

「○大の学生さんっておっしゃいましたよねぇ?」 
「あ、はい」 
「ボーリング場の近くですよね?いいなぁ。実は私ボーリングが趣味でして」 
「あの・・・」 

「○○通りの近くはいいですよねえ、あ!○大の学生さんでしょう?」 
「あの近く、ボーリング場があるでしょう?私ボーリングがすきでねぇ、社のボーリング大会でも結構いいとこまで行ったんですよ」
「○大の学生さんっておっしゃいましたよねぇえ?」 

こんな感じで、会話がずっと同じ内容でループし始めたのです。 
ものわすれがひどい年齢には見えませんし、そういった類のものとは違う、なにか得体のしれない不気味さを感じました。 
僕のうつろな返答にかまわず、運転手は延々同じ話題を繰り返しています。 

密閉された真夜中の車内は、暗く重く、いやな汗が背中から吹き出し、効かせすぎた冷房に冷やされて寒気さえ感じていました。 
ミラー越しにはさきほどと同じ笑った目元が張り付いたままでした。

突然、会話がふっと途切れました。この奇妙な会話から解放されたのか?と思った瞬間、 
ドンッ!!という衝撃音が車内に響きました。 
ビクッ!と身体を硬直させながら見ると、運転手が左足を、まるで何かを踏み殺すかの勢いで床に打ち付けているのでした。 
それも一回ではなく何度も何度も。ドン!ドン!ドン!と。 

「ああああああああああああああああ。あああああああ!!!」 

さらにはこんな唸り声まで上げ始めました。 
運転手は足を、今度は貧乏ゆすりのようにゆらしているのですが、力いっぱい足を上下しているので車がグラグラ揺れるほどでした。 
なぜ?前の車が遅かったのが気に障ったんだろうか?それとも僕が何か怒らせることを言ったんだろうか!?ていうかこの人ちょっとおかしいんじゃないか!? 

僕は完全に混乱してうろたえていると、 

「お客さぁん、○○通りに住んでるってことはもしかして○大の生徒さん?」 

・・・と、また同じことを僕に聞いてきたのです。 
グラグラと貧乏ゆすりをしながら。目元にはあの笑顔を張り付けたまま。 
この時僕は、もはや違和感や不気味さなどではなく、はっきりとした恐怖心を抱いていました。 

自分の命を、明らかに異常な男の操縦に預けている。 
これを意識した時の恐怖は今でもはっきりと思い出せます。 
しかも運転は明らかに荒くなっており、曲がるたびに右へ左へ体がふられ、前を走る車にはクラクションを鳴らして強引に前に割り込んでいくのです。 
京都のタクシーが運転が荒いのは知っていましたが、乗客に死の恐怖を感じさせるほどではありません。 
このときは、本当に死ぬかもしれないと思いました。

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