ヤラレタラ、ヤリ返ス…

JHARDさん  2008/05/28 03:00「怖い話投稿:ホラーテラー」 
私が通っていた学校には柄の悪い男子生徒がいる。
煙草吸って、髪を染めて、だらしない制服、体中に刻まれた傷跡。
悪い人たちと絡んでいて、誰もが恐れる存在だった。
そんな中でも一番反抗的だったT君。気に入らない人がいるとすぐに暴力を振るう最低な人間。
暴力を受けた生徒は学校に来なくなり、三ヶ月後に自殺をした。
その事件がこの話の始まりだった――。


――…
私はT君と同じクラス。席も近く、毎日が緊張と恐怖心に襲われている。
授業中。ドアをこじ開けて遅刻してきたT君に先生が怒鳴ったときのこと。
教室の反対側には美術室がある。
その美術室のドアの前に女子生徒が立っていた。
ぼろぼろの制服。破れかけたYシャツ。裸足だった。
腕は傷だらけだ。
それを見た私は、苦しくなった。心臓がつぶされるようになり呼吸ができない。
そのまま、私は気を失った。


――…
目が覚めたとき、目の前には親の姿があった。
病院にいた。
心配そうな母の隣りに父がいて、その隣りには先生がいる。医師はその隣り。看護師さんもいた。
私は二日入院をし、そして学校へと向かった。
あの子は誰だったんだろ。
まだ、あの不気味な少女の姿が頭に描かれている。腕から血を流し、T君を睨んだあの目。忘れることができない。
教室に入ったとき、友人のEちゃんが潤んだ目で私のほうに来た。
「T君、殺されたらしいよ」
息をのんだ。
T君の死。もう校内では噂になっている。あの女子生徒の呪い、だと。
意味もなく暴力を受け、日々苦しんだ女子生徒がT君を呪ったのだ。
美術室…。
私はEちゃんに聞いた。
T君から暴力を受けた子がどこで自殺をしたのか。答えは美術室だった。
あのとき見た少女は亡くなった女子生徒だ。
私は美術室へ向かった。
誰もいない。あの少女に会いたい。会って話がしたい。
成仏されないで、ずっとさ迷い続けてほしくない。そう思っていると、背後にあった棚に何かがこすれ合ったような音がした。
振り返ると、そこにはあの不気味な少女がいた。
「あなたがT君を…」
「ヤラレタラ、ヤリ返ス」
小さな声で言った。
とても淋しそうな声。今にでも私に襲いかかってきそうだ。鋭い目の横には刃物で切り付けられた跡が残っている。
痛々しい傷跡。
どんなにこの子がつらかっただろう。胸が痛くなる。
「あなたがやっていることは、T君と同じだわ!」
「ヤラレタ事ヲ、ヤリ返シタダケ」
「ちがう!人を殺してはだめ。やられたからってやり返したら、そこで憎い人間と同じよ」
彼女に届いてほしい。
つらい思いをしたのはわかる。でも、人を殺してはいけない。
女子生徒は私を虚ろな目で見る。
そして気付いたときには、少女は私の目の前にいた。口元をにやつかせ、青ざめた肌、真っ赤に充血した瞳。
私の首をつかんだ。
机の上に倒れこむ私に少女は言う。
「同ジ目ニ遭ワセナイト、ルール違反」
ルール…?
彼女はさっきよりも強く私の首を握り締めた。
ルールとはなんだ。なんかのゲームなのか。
問いかけたいが声が出ない。苦しい。私もこの子と同じ目に遭ってしまうのだろうか。
私の瞳から涙が出たとき、女子生徒は手を放した。
「泣イテル?」
咳をしながら私は小さくうなずく。
少女は私の頭をなでた。さっきまでとは別人だ。
苦しそうにする私の顔をのぞきこむようにして、女子生徒は私に言った。
「涙ヲ流シタ。私ト同ジ目ニ遭ッタ」
「え…」
「ルール守ッタ」
そう言い残し、少女は何事もなかったかのように姿を消した。
それと同時に先生がやってくる。Eちゃんが心配そうに私のほうへやってきた。
なんだったのだろう。
あれ以来、女子生徒の姿は見えなくなった。成仏されたのかはわからない。
でもあの子はきっと、まだ美術室にいる。なんとなくそう思う。

――…
ヤラレタラ、ヤリ返ス。
ソレガ、ルール。
守ラナクテハ、ナラナイ。


あなたの近くにもいるかもしれない。

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