奇妙な仕草

606 本当にあった怖い名無し sage 2012/12/12(水) 00:33:48.49 ID:I0ffIumY0

首都圏のあるホテルのスカイラウンジでの話 
俺は近くに勤め先の支社がある関係でよくこのホテルを利用する 
といっても月に多くても4~5回のもんだけど 
寝る前にそこのバーで一杯やるのが楽しみだった 
くの字型に大きな続いていて 
その一辺のほうからは港の景色が見えると言えばわかる人がいるかもしれない 

それで何度か通ううちにあることに気づいた 
俺がそのホテルのバーに行くたびに必ず同じ人物がいる 
その人は70代くらいに見えるじいさんで 
昔風のベストのついたスーツを着てジンリッキーとか飲んでる 
これだけならまあ御常連さんということだろうけど 
奇妙な動作をしている 

そのじいさんは港に面しない方の窓際の同じ席にいつもいるんだが 
テーブルの上に店のものとは見えない白い箱が置いてある 
じいさんは座ったまま窓の方を向いて両手の人差し指を目の前で合わせ 
白い箱に向けて指先を引き下ろすような仕草をする 
10分に一度くらいの感じでそれをやってる 
俺が行ったときは毎回だったから、もしかしたら毎日やってるのかもしれない 

気になったんでカウンターのバーテンの一人に話を向けると 
「毎日こられています この地区では有名な方で、引退した社長さんですよ」という答え 
あの仕草についても訊いてみたんだが「さあ 何かの健康法でしょうか」と要領を得ない 
たしかに指先にはかなりの力が込められているのが遠目にもわかるから 
実際そうなのかもしれない 
じいさんは11時を過ぎると箱を布に包んでしまい 
がっくりとした感じで杖をついて帰って行く 

その日も出張でホテルを利用した 
バーに行くとやっぱりじいさんは同じ席にいて、ときおりあの仕草をする 
そのとき俺は、じいさんの動きは窓の外の景色と何か関係があるんじゃないかと思った 
じいさんの席の正面にはこれもけっこう有名な高層ビルがあって 
この時間でもたくさん明かりがついてる 
俺のいるカウンターからは角度がずれてよくはわからないが 
その高層ビルをなぞって指を動かしているようにも見えた 

ついこの間またそのバーに行ったが、思ったとおり同じ席にじいさんはいた 
怪しまれない程度に様子をうかがっていると 
指先にはすごい力がかかっているようで痩せた体が小刻みに震えているのがわかる 
と、これまでにはないことに指先を引き下ろしたあとでポンと手を叩いて顔を下に向けた 
そして顔を上げたときには気持ちが悪いほどの満面の笑みを浮かべている 
そのまま箱をかたづけ杖をとって歩き出した 
早い時間だがもう帰るらしい 

カウンターの脇を通るところでじいさんは俺の席の横に来てバーテンに向かい 
「この方のお勘定はわたしにつけておいてください」と言った 
俺が驚いているとじいさんは「いやあ、お祝いです どんどん飲んでください」と声をかけ 
俺が「それじゃ悪いですよ・・・何のお祝い・ですか?」と尋ねると 
「いや、いや、気にしないで これでやっと引退できます わたしの退職祝いと思ってください」 
と陽気な声で答えると俺のほうに顔を近づけ、小声で 
「わたしの動き見てたでしょう 知ってますよ」とつけ加えた 

じいさんは帽子とコートをとって帰っていき 
俺はわけがわからないながらも年代物のスコッチなどを注文してかなり酔うまで飲み 
次の朝二日酔い気味で支社に顔を出したとき 
夕べじいさんが指でなぞっていた高層ビルから 
飛び降り自殺が、それも同時に二人あったという話を聞かされた 

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