お前だー!

747 本当にあった怖い名無し sage 2012/08/04(土) 19:46:23.31 ID:dudX7Rm/0

 絶壁に沿って作られた細い道を、男は急いでいた。大波が岸壁に叩きつけられ、男の 
脚絆から股引まで濡らしていた。そこは、難所として旅人に知られている。 
 こいつぁいけねえ、と男は思った。海がどんどん荒れ狂ってきたのだ。壁にうがたれた 
穴を見つけた時、男は安堵のため息をついた。だが、飛沫の向こうから人が来ている 
のが分かると、男の心臓は縮まった。男と老婆は穴の前で鉢合わせした。人ひとりやっ 
と入れる穴だ。波はすでに男の陣笠まで濡らしている。男は意を決した。彼は老婆を突き 
落とした。 
 男は穴の中で波が静まるのを待った。こうして彼は、難を逃れることができた。 
 その夜、宿で布団に入っていると、遠くで障子を開ける音が聞こえた。 
「ここでもない」 
 しわがれた女の声が聞こえた。 
 障子を開ける音、「ここでもない」という老婆の声。今度は少し大きく聞こえた。 
 それは繰り返された。徐々に近づいてくる。 
「ここでもない」 
 もう、隣まできている。そしてついに男の部屋の障子が開かお前だー! 

 彼は暗い地下で長年過ごした。彼は、外に出てみようと思った。彼は地上へと続く縄 
梯子を上っていった。ふたを開けると、何年も見ていない光が降り注いだ。 
 彼は街を歩いた。ところが、道行く人々が彼を見て悲鳴をあげて逃げていくのだ。 
 彼はショーウィンドウにうつった自分の姿を見お前だー! 

 あら、何かしら。彼女はある日、右腕に米粒ほどの膨らみを見つけた。痛くもないので 
放っておいたら、日に日に大きくなっていった。何か模様がある。1センチ程度になった 
時、それは人面瘡のお前だー! 

 腐った柿のようにぐじゅぐじゅになったお前だー! 

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