深夜の物音

328 本当にあった怖い名無し sage 2012/05/13(日) 13:32:54.83 ID:eJoW44y20

小学校3年生の秋だったか、親戚で不幸があり俺以外の家族が皆手伝いに行ってしまい 
1人で留守番しなきゃいけないときがあった。あまり遅くならないように帰るとのことだったが、 
9時過ぎても帰ってこないので電話したら深夜になるかもとのこと。寝てろと言われたのだが、 
テレビもない2階で自室に行くのが嫌でずっと茶の間でテレビを点けっぱなしにしていた。 
怒られてもいいからこのままここで寝ようと思ったが、いつもと違うからかなかなか眠くならない。 
起きてマンガ読んだりゲームしてみたりしたが、次の日も学校だしと心配になり上の空。 
思い切ってテレビを消してみたがやっぱり怖い。それでズルズル深夜放送を眺めてたんだが、 
やがてどこの局も終わって次々にカラーバーだの砂嵐だのに変わっていく。田舎だから結構早いのよ。 
で、気付いたら2時近く。丑三つ時=幽霊出るみたいな認識だったからガクブルで慌ててディズニーのビデオを再生した。 
いつもは笑いながら観れるのにちっとも集中できない。 

何というか、テレビ放送はリアルタイムで受信しているから余所と繋がっている感覚みたいなものを感じ取れるんだけど、 
ビデオは完全にここだけのものだから孤立している感じがするし、そうなると逆に静かじゃないことが気になってくる、 
みたいな矛盾した感覚に襲われたんだ。しかし消す踏ん切りはつかない。ジレンマの中じりじりと家族の帰りを待っていた。 
ちなみにトイレは出来る限り我慢して、0時頃に行った。ちょっと濡らした。 

ふと天井付近からガタっと音がした気がした。時計は2時20分頃。慌てて一時停止して息を潜めた。 
しかし何もしない。また再生。だがしばらくするとまたガタっと。また一時停止。 
それが数回続き、俺は気のせいと決め付けて無視することにした。どうせ屋根裏でネズミでも…… 
そこまで考えてハッとした。屋根裏への出入り口は完全に閉め切っているはずなのだ。 
去年ハチが巣を作ったので修繕したのだから。しかも茶の間は家から張り出した部分で2階もない。 
そこに気付いたことを待ち構えていたようにドタドタドタッと大きく動く音がした。明らかにネズミではない。 

少なくとも自分と同じくらいの子供が立てたような音だ。そう思って半端じゃなく怖くなってきた。 
ビデオどころじゃない。すぐ消した。足音?はドン ドン ドンと少し間隔を置いて聞こえてくる。 
しかも茶の間の天井から遠ざかっているようだ。足音の行方を目で追う。思わず立ち上がってしまう。 
音は茶の間上から去り2階部分に侵入したようだ。まだ停まらない。俺は襖を開けて廊下に出た。 
足音の方を追う。廊下の上をゆっくり進む。その先には――階段。 
俺は回れ右して茶の間に戻った。急いでしかし音を立てないように。涙が出そうだった。そっと襖を閉める。 
つっかえ棒みたいなものを探したが何もない。抑えておけるとも思えない。俺を絶望感が襲った。 
そして遂に廊下の奥からギシッ ギシッと階段を下りてくるような音が聞こえてきだした。 
俺の脳内では貞子とか伽耶子とかが四つん這いで下りてくるイメージが出来上がっていた。 
軋む音は止まない。階段は何段あったっけ――?心臓が高鳴る。俺は咄嗟に最後の手段、 
テーブルの下、掘り炬燵の窪みに潜り込んだ。隅に体育座りをして息を潜めた。秋なのでカバーはないから 
下を覗き込まれたらアウトだ。四つん這いならすぐに視界に入るかも知れない。だがもうどうしようもなかった。 

ギシッ ギシッ ドドン 
遂に廊下に降り立ったらしい。抱え込んだ両膝が震え出した。両腕に力を込める。 
ドン ドン…… 
気のせいか音が大きくなった気がする。より大胆に。襖まであと何メートルだろうか? 
ドタドタドタッ 
いきなり距離を詰めてきた。「ぁあ……」思わず声が漏れる。もう襖のすぐ後ろにいるに違いない。 
襖がガタッ ガタッとぶつかりながら開いていく。四つん這いだからスムーズに開けられないのか。 
廊下側には想像した通りのモノがいた。白い服を着て四つん這いになった髪の長い、異常に長い女。 
まず両手が畳を滑るように入ってくる。肌が青白い。そして腕が長い。そのままテーブル下まで 
入ってくるんじゃないかと思えるほどだった。 
次に頭が、というか髪が入ってきた。毛先が生きているかのようにじわじわと茶の間を浸食してくる。そして 
「ぉお……ぉお……」 
まるで効果音のような呟き?を微かに響かせながら頭が入ってきた。次の瞬間腰から下が一気に入ってきて茶の間を這い始めた。 
テーブルの周りを回っているように見える。もうすぐ俺の潜む角の真横に来る! 
ズリッ ズリッ 
もっとも近くなる瞬間。毛先が首筋に触る。ザラついているかと思いきや、サラサラで気持ち良いくらいだった。 
そう感じた瞬間、ピタッと動きが停まった。 

気付かれた。小便がじわっと漏れるのを感じた。 
ドン 
テーブルの上に飛び移った。髪が下まで垂れ込んでくる。 
ドンドンドン 
テーブルを這い回っている。 
「あ゙ぁ゙……あ゙ぁあーー」 
苛立っているかのように耳障りな声を出している。 
「あ゙、あ、あぁ……あ゙っ、あ゙っ、あ゙っ」 
不意にトーンが変わった。まるで笑っているかのようだ。何があった。何が。 
「あ゙っ」 
振り返らなかった。振り返れなかった。恨めしいほど鮮やかにイメージできる。 
逆さまになった顔がテーブル下を覗いている。髪が畳を覆い尽くしている。俺のすぐ後ろ。つくぐらい後ろ。憑くくらい後ろ。 
小便が広がっていく。開いた口から涎がつーと垂れた。涙は出なかった。 

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