真冬の帰り道

603 :本当にあった怖い名無し :04/11/22 04:15:27 ID:rpkKfxAN

真冬の帰り道だった。 
仕事が終わったあとは、開放感もあるが、時間を自由に使える 
期待感も大きかった。夕食を済ませたら新作映画でも借りるかと 
あれこれ楽しい思案をする。地元の駅から自宅までは距離があり 
てくてくと歩きながら、いろんなことを考える。 
商店街を過ぎ、民家の建ち並ぶ見慣れた風景と、住み慣れた自宅が 
見えたころ、僕はこのままどこへも立ち寄らずに「ただいま」と 
帰宅することが、もったいなく思えた・・・確かその瞬間だった。 
急に、見慣れたはずの風景が、見知らぬ土地に思えた。 
普通に、という表現が正しいかどうかわからないが、とにかく 
見渡すまわりの家並みが、あたりまえにそこにあり、まるで初めて 
訪れた場所でもあるかのように、無表情に冷たく建ち並ぶ。 
背筋が凍りつく。あせって左右前後を見回すが、目に映る情景は 
記憶にもなく、得体の知れない不安が募ってゆく。 
思わず「え?」と声をあげてしまった。ふたたび歩き出すと、なぜか 
サッと普段の見覚えのある風景に変わった。とっさに後ろを振り返ると 
やはりかわらぬ自宅周辺の、毎日行き来する光景があった。 
気を取り直して、さらに歩を進めると、突然、蛍光灯をつけたように 
僕の周辺が明るくなった。まだ夕日が差していたので、明るいといっても 
真昼の部屋で室内灯のスイッチを入れた程度である。 
5メートルほど頭上に、1メートルぐらいの楕円とも円ともいえる、 
平べったくて真っ白なものがあり、僕がそれを見たとたん、ギュンと 
真横に飛び去った。それはしばらく近所の家の屋根に数秒とどまって、 
不定形にうごめくと、上昇も下降もせず、真横に遠くへ飛び去った。 
自宅に帰り、気分が悪くなって寝込む。カゼをひいたらしく、悪寒がした。 
39度まで熱が出て、二日間会社を休んだ。僕の中では、あの奇妙な出来事は 
熱が出たときの悪夢というポジションに近い。怖くもなく、また現実味も 
なく、今ではその時の不思議な感覚も忘れかけている。しかし、たまに 
帰宅途中に思い出し、歩いている周囲を再確認したりする。

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