雛人形

619 :あなたのうしろに名無しさんが・・・[sage] :03/04/22 13:26

ある日、叔父の一家が遊びに来た。昼食の後大人達は茶の間でおしゃべりをし、私と私の兄弟、いとこ達は隣の部屋で遊んでいた。
茶の間と隣の部屋を遮るふすまは開け放たれて二つの部屋は一体となっていた。
大人たちのおしゃべりと子供達のはしゃぐ声でそこは明るいにぎやかさでいっぱいだった。
子供達の間で追いかけっこのようなことが始まりった。私は押入れを開け、上の段によじ登った。
押入れの布団の上に登ったところで、暗がりに妙なものがあることに気がついた。
2体の人形が、押入れの私がいるのと反対側に鎮座している。

それはいつもはその部屋のガラス戸棚に飾られている人形だった。
7センチほどのお雛様とお内裏様の人形で、形自体はだるまのように丸く、そこに着物と顔が描きこまれていた。
顔は真っ白で、雛人形らしい切れ長の目をしていた。

私はそのお雛様に特に注意を払ったことはなかったが、そこにその人形があることは意識するともなく意識していた。
それが押入れの暗がりに、ちょうど自分に向かうように2体並んで立っている。

あれ、と思うまもなくその人形達は、
ひょい、ひょい
とその場で小さく跳ねた。私は何がおきたかも分からずあっけにとられた。
しかしすぐに大きな恐怖に襲われた。人形達が跳ねながら私に近づいてきたのだ。
しかも近づきながらその姿はどんどん大きくなってくる。
ひょいひょいひょい。
私の目の前に迫った時には私よりも大きくなっていた。
「うわっ!」
私は手をむちゃくちゃに振り回した。その弾みで押入れから転げおちた。

畳が目の前に迫る・・・!ばしん、と畳に手をつき、顔を上げた。
すると・・・誰もいなくなっていた。駆け回っていた兄弟やいとこ達。
隣の部屋でおしゃべりに興じていた大人たちも。部屋はがらんとして、気がつくとさっき昼食をとったばかりだったはずなのに、部屋には夕方の光が斜めに差している。

何が起きたのか分からないまま、しばらくぼうっとしていると母親が現れた。
いとこ達はどうしたのか、と聞くともう帰ったという。
あの人形は?と思い、戸棚を見てみた。すると人形達は無くなっていた。
私はお雛様はどうしたのかと聞いてみた。

しかしわたしがいくら説明しても母親はそんなものはない、初めからなかった、というばかりだった。
それから数ヶ月、寝るたびに薄暗い路地であの自分より大きくなったお雛様達に追いかけられる夢を見た。
途中で夢だと気づくことも多かったが、それでも醒めずいつまでもいつまでも追いかけられるのがつらかった。

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