ぺたぺた

231 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ :02/10/03 00:47 
今から数年前の夏のころ。
夜遅くに友人から麻雀の誘いがあった。
週末これといった予定もなかったので、出かけることにした。
終電で辿り着いた友人宅は、世田谷の奥まった場所にある。
寝静まった住宅地は昼間の記憶を危うくし、道に迷ったことに気が付いた。
暗い夜道を行きつ戻りつしながら、公団住宅らしき場所で立ち止まった。
宅地地図の表示板の前であたりを見回すと、何気に視線が建物にいく。
外階段の踊り場だろうか、人影があった。 

暗くて男女の区別はつかないが、五階の窓台に両肘を乗せ、下を覗き込んでいる。
誰かに道を尋ねたいという気持ちはあった。
声をかけるには離れすぎている。というか、背中に悪寒が走っていた。
「あれは違う」と感じた瞬間、その人影がすっとこちらに顔を向けた。
そして、まるでこちらを確認したかのように、ふっと姿を消した。
階段を下りるぺたぺたという音がコンクリートに反響する。
それを聞いて慌てて走り出した。
 なぜ逃げるのか、どうして追われるのか、その時は何も考えられなかった。
ぺたぺたという足音が、一定のリズムでこちらに迫っていた。
五分ほど走って、狭い道からようやく広い通りに出る。
肩で息をしながら、額の汗をぬぐうと、行き交う車の音で足音は聞こえなくなっていた。 

人心地ついて、友人に携帯で電話する。
「そんな団地みたいな建物ないぞ」
携帯で誘導してもらいながら、今しがたの出来事を話すと、友人はそういった。
「いや、学校の敷地を通り過ぎたあたり」
そこまで話すと、電話が不通になった。
「圏外?」パネルのマークを見ながらつぶやく。
 あたりは思いのほか静寂に包まれていた。
そして、あのぺたぺたという足音が聞こえてきてた。
今度は立ち止まって、その足音の主を確かめようと思った。
外灯の下に立ち、身構えると、全身に震えがきた。
 なぜたか分からない。そんな体験は初めてだった。
足音は消えて、何かの気配があった。

 結局、負け犬のようにびくびくしながら道を引き返した。
友人の誘いを無視して、自宅に帰った。
 世田谷で起きた幾つかの未解決事件。何の根拠もないのだが、個人的に気になる
今日この頃だ。 

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