忘れないで

691 名前:593 :02/06/08 01:30
母の実家の話。
私もよく遊びに行ったその家は、一階が土間で、二階も
和室が三畳連なった、木造建築でした。階段や廊下、トイレには
裸電球しかなく、いつも真っ暗でした。仏壇のある部屋はいつも
線香の匂いがたちこめていて、壁には多くの故人の写真が飾ってあり、
幼心になかなかスリリングだったのを覚えています。
母は独身時代その部屋で寝ていたのですが、金縛りや宙を浮いている幽霊を
見ることは日常茶飯事だったそうです。


数年前、その家は火事で全焼しました。

幸い、死傷者は出ず、祖父母は近代的な新しい家を建てました。
ある日私と母がその家の中にいると、突然母が「コゲ臭い!」
と騒ぎ始め、ガスの元栓などを調べ始めました。
しかし原因は見当たらず、「燃えてるよ、何も感じない?」
と不安がる母に対し、その場にいた私や父は何も臭わなかったので、
「そういえばこの前の家、火事で焼けたじゃん、覚えてる?」
と私は言いました。
「ああ、一瞬、昔の家の事忘れてた・・・」と言う母は、昔の
家を思い出すと同時に、何かか燃えた臭いは消えていったそうです。

きっとお母さんに忘れて欲しくなかったんだね。

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