変な音がする

59 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ :2001/08/14(火) 14:04

これは私の友人Kが中学生の頃に体験したという話です。
Kは当時、剣道部に所属していて、夏には男子のみ夜の8~9時頃まで練習していた事もあったそうです。
そんな夏のある日、いつものように夜遅くまで練習した後Kと友人達はおのおの帰路につきました。
Kの家は私の家の近所です。中学校からの帰り道はたんぼの中のあぜ道を舗装しただけのような寂しい道です。
街灯はそのたんぼの中の十字路に一本立っているだけでした。
Kは、もう一人の友人Sと自転車をこぎながら真っ暗なたんぼ道を進んでいきました。
と、そのときです。
Sが突然自転車をとめました。
「どうしたん?」
とKも自転車をとめてたずねると「俺のチャリ(自転車)変な音がする。」
といってSは前輪をのぞき込みました。
そのとき、Kの耳にもキュ、キュ、キュ、・・・・・・・・・・
という音がどこからか聞こえてきました。 Kは、
「キュ、キュって音のことかえ? それってまだ聞こえるじゃん。」
Sも、
「うん、俺のチャリじゃないみたい。」
自転車を止めたので、ライトは消えています。二人のまわりは真っ暗です。
明かりは二人の前方に十字路の街灯があるだけで、それがスポットライトのように十字路を照らしていました。
二人ともしんと黙って、
そのキュ、キュ、キュ・・・・・・・・という音に耳を傾けました。
音は金属音のようで、カエルの鳴き声しか聞こえないたんぼ道の中でやけに耳につきます。
その時、Kがふと十字路の方を見ると、十字路の右手の道から何かが十字路に向かってくるのが見えました。
どうやら金属音もそちらの方から聞こえてくるようです。
「おい、あれじゃないの?」Sもそれに気づき、
「何だろ?どっかの婆さんかな?」
と言います。 

Kはなぜかホッとして、再び自転車をこぎ出そうしました。
すると
「まって!」
とSが突然Kの腕をグッとつかみました。
Kが「なんだよ…」と文句を言いかけると、
「なんか小さいくない?あれ。」
Sの表情は真剣そのものです。
KはそのSの表情に何かゾッとするものを感じて、再びその「何か」の方に目を凝らしました。
その「何か」はキュ、キュ、…と音をたてながら次第に十字路に近づいてきます。
Kも何かおかしいと感じました。

街灯に近づくにつれてハッキリとしてくるその「何か」は、明らかに人間の腰ぐらいの大きさで、三角形のように見えました。
キュ、キュ、・・・・・・・・という音はそれが十字路に近づくにつれてキコ、キコ、キコ、・・・・・・・・
と何かをこぐような音に変わっていました。 「あれ…。三輪車じゃない?」
SがKに言いました。そういわれればKにもそう見えます。
「何だ、三輪車か…」 小さく見えた理由がそれでわかりました。
どうやら子供が三輪車を必死でこいで十字路を右手の道から二人を横切るように左手の方へ進んでゆくようでした。
その三輪車が街灯の真下を通過するとき、
子供が足を必死で動かして三輪車をキコ、キコ、キコ、・・・・・・・
と進めているのがわかりました。
二人ともその様子を黙って見ていました。
その三輪車が、左手の道の方に見えなくなるとKはなんだか安心したて、同時に笑いたくなりました。
剣道の有段者である自分たちが、たかが三輪車にビクビクしていたことがおかしくなったのです。
しかし、いつもなら「アホらしい」といって真っ先にに笑い出すはずのSが、まだ緊張した顔をしています。
それが暗がりの中でもハッキリとわかりました。
Kはおもしろがって
「どうしたんだよ、お前。三輪車が怖いの?」
と茶化しました。 

しかし、SはKの予想に反して
「うん、怖い。」
と相変わらず真面目な顔でいいます。Kが何か言おうとすると、Sは続けて
「だって、今何時だと思ってるん?それに、 あの子はどこに行こうとしてるんだ?」
といいました。
Kもその言葉の意味に気付いてゾッとしました。
もう、夜の9時をとっくに回っています。東京と違って、千葉の田舎ではほとんど深夜です。
大人でさえあまり出歩いたりはしません。
さらに、Sが言った「どこに行こうとしてたんだ。」という意味。
前方の十字路を左手に進んで行く道、つまり、三輪車の向かった先には、
元で「セキ」呼ばれる貯水池と造成地の他は無人の消防団の小屋があるだけだったのです。
その後KとSは無謀にもその三輪車を追いかけることにし、
とんでもなく恐ろしい目にあってしまうのですが、長くなったので次の機会に。   

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