バス
878 :本当にあった怖い名無し :2007/01/26(金) 11:53:23 ID:4yjXobNy0
これは昭和の40年代の私の体験談です。
その夏は友人数人と連れ立って伊豆の戸田という村に遊びに行くことになっていました。
戸田村は国民宿舎があり、海水浴場もあることから当時からよくにぎわっていました。
伊豆半島の中央部にある修善寺という場所から西伊豆にある戸田村まではバスで移動します。
バスの中では久しぶりにあう友人たちと話を咲かせていました。 しばらくするとバスは戸田峠をすぎて下り坂に入りました。
下り坂に入ってしばらくすると、前方に男が歩いているのが見えました。 その男はバスが近づいてくるのに気づくと手を振りました。
どうも、バスに乗せて欲しいということらしい。
田舎のことなので当然のように止まるバス。そして男が乗り込んできました。
「大きいな・・・」
その男がバスに乗り込むと、バスの天井に頭が着きそうになっており、ずいぶん背丈が大きいことに気づきました。
地元の人間が山に入るときのような服装で、年齢は20歳代に見えました。
バスは再び走り出しました。 ところが、すぐにエンストを起こしてしまいました。
運転手が何度も再始動を欠けてやがて走り出しますが、またすぐにエンストを起こします。
男を乗せた後にエンストが起きるようになったためか、周りからの視線であまり居心地が良くなかったようで、しばらくすると「やっぱり降りるよ」と言って男は降りていきました。
男を追い抜いていった後はエンストも起こさず順調に走り出しました。
私は、「なんか悪いもんでもついてたのかね、あの男」などと言って友人たちと笑っていました。
しばらく急カーブの連続に揺られていると、道を歩いていた男を追い越すことに気づいて何気なく振り向きました。
「?」
なんとなく先ほどの男のような気がしました。 しかし、もう何分も前に降ろした人間が山道とはいえバスを追い抜けるわけがありません。
それでも気になったので良く見ようとしましたが、そのときには次のカーブに入っており姿は見えなくなっていました。
(多分気のせいだろう。山仕事の作業着なんてどれも似たようなものじゃないか)
友人たちは特に気にする様子も無く話を続けていたので、そのときはすぐに気にしないことにしました。
また何分か過ぎたころ、再び歩いている男を追い越すことに気づきました。
先ほどのこともあり意識してその男を見ていると、今度の男はバスが通過するときに足を止めてこちらを見ています。
(今度の男も同じような服装だな・・・)
男の顔が近づいてきたとき私はあることに気づきました。 顔の位置からして背の大きな男であることに。
友人たちは私の様子から外の男に気づいたようで、なんとなく注目しているようでした。
「あの人、さっき降りた・・・?」
友人の一人がつぶやきます。
他の友人がそんなことあるわけが無いと言い、それもそうかとつぶやいています。
しかし、私のほうはもうそれどころではありませんでした。
服装も背丈も同じような人間に山の中で3人も連続で出会うものだろうか? おまけに最初の男も今の男もメガネをかけていた。
仮に同じ人間だとするとなぜバスで次々と追い越すのだ? いや、そもそも人間なのだろうか・・・。
会話が止まってしまったまま何分かするとまた男が前方に見えました。
歩いている男は先ほどと同じように立ち止まり、こちらを見ています。
「まただ・・・」
今度ははっきり分かりました。同じ男です。
どうやら友人たちも気づいたようで、顔が青いのが分かります。
私の顔もおそらく同じように青かったでしょう。
完全に黙ってしまったまま数分が経ったころ、またそれは現れました。
「・・・」
やはり同じ顔、同じ人間です。
なにかまずいものを見てしまったという思いがぐるぐると頭の中を回っています。
もう行楽気分など吹き飛んでいました。
結局、4度目にすれ違ったのを最後にそれとすれ違うことはありませんでした。
私たちは戸田村についた後、そのまま帰ることにしました。もうバスで同じルートを通る気にはなれなかったので、船で沼津まで移動して帰ることにしました。
家に着くまでとくに事故も事件も起きず、その後も特に悪いことなど起きませんでしたが当分の間は気分が晴れませんでした。
友人たちとは今も時々会いますが普段は話題にしません。ですが、酔ったときになど
「あれは同じ男だった。何度もすれ違った」といいますので記憶違いや思い込みではないと思います。
今もって正体も意味も分かりませんが、あれは一体なんだったのでしょうか?
「怖かった(であろう)編・完」
881 :本当にあった怖い名無し :2007/01/26(金) 12:01:58 ID:4yjXobNy0
上の文章は、かつて私が父親に聞いた話を元に作った話です。
時代は昭和30年代から40年代の間のはずです。
「私」と友人たちの言動のみ創作で、それ以外は聞いたままの描写としています。
父親は戸田村の出身で、子供のころから山に入って遊ぶのが好きだったそうです。
東京のほうに出た後も帰省したおりには山に入って手入れなどをよくしていたそうで、そのときは戸田峠の方まで足を伸ばしたあとの帰りの出来事だったそうです。
戸田峠から戸田村までの間に通る山道はバスの通るルートを縦に突っ切るような位置関係にあり、ちょうどドル記号($)の縦の線のように人が移動することが出来たそうです。 S字のカーブとカーブの間隔が充分長いため、慣れている人間が山道を走ると車より早く移動できるのだとか。
ただ、山道も一直線の道ではなく、バスの通る路上を歩いて次の山道に移動する必要があったりしたため、同じバスが何度も追い抜いていったそうで。
父親の言うには、「大体3回か4回目ぐらいに自分のほうを見て真っ青になってた人がいたぞ」 だとか。
「悪いことしたなー」とか言いつつ顔は笑っている父親(笑
「4回目以降は離れていたから追いつけなかった」っておーい!(笑
そんな父親も若いときは登山が趣味だったようで、今も生きていればいろいろ話が聞けたかもしれません。
(後に、「おふくろ、俺が遭難しても救助隊出さなくていいからな」「何言ってるか!家を売り払ってでも出すに決まってる!」というやり取りの後、登らなくなったそうです)
思い返せば、親の若いときの話っていうのはなかなか聞く機会が無いものですねぇ。
久しぶりに父親との会話を思い出したので書き込んでみました。
長文乱筆、失礼しました。
「怖がらせてしまった編・完」