美しい女

596:11/06(月) 23:18 Tkn+zNYEO [sage] 
知人Tの祖父の話 

T祖父は若い頃、仲間と組んで山仕事をしていた。新人の頃、山に 
泊まり込みで入った時、美しい女に薮の間から覗かれたことが 
あった。近くに民家はなく不思議だったが、慣れない作業に 
没頭するうちに消えていたという。夕飯時、小屋に戻って話すと 
年長の職長が嫌な顔をし、皆に釘をさした。 
『片手片足の女だろ?絶対に相手にすんな!』 
薮から覗く顔しか見てないT祖父だが、職長の勢いに素直に 
頷いた。翌日も女は覗いていた。相手にする気はないが、女の 
美しい顔を気にしていると、ついに女は姿を現した。 

女は腕も脚も一本で、ピョンピョン跳ねて彼の側まで来ると、 
彼の股間をまさぐり始めたという。まだ若く女性経験もなかった 
T祖父は驚いて突き飛ばしたが、女は器用に体勢を直し、ニヤニヤ 
笑って薮に消えた。女が際だって美しい分、不気味だったそうだ。 
その夜、Aという男が小屋に戻らず、皆で心配していたが、夜も 
更けた頃ひょっこり戻り、道に迷ったと頭を掻いた。皆が笑う中、 
T祖父の隣の職長だけは深い溜息をついた。翌日、職長とAが 
話をしていた。ニヤニヤ笑うAの顔は、あの女を彷彿させた。 
"互いにええ思いをしただけや" 

その一言で、Aがあの女と寝たことはT祖父にも解ったという。 
それからAやAと懇意なBが遅く帰ってくるようになった。 
『お前は行くな。手足をなくすぞ』 
職長はT祖父に信じられないことを言ったが、どちらにせよ、 
あんな女を抱こうとは思えなかった。仕事が終了した日、Aは 
山に残りたいと言った。さすがにそれは許されなかったが、町に 
下りるなり踵を返して山に戻るAを止められる者はいなかった。 
その後のAを知る者はない。次の仕事にはAもBも来なかった。 
Aは行方知れず、Bは手足を失う大事故にあったのだという。 

前の話へ

次の話へ