井戸

139:しゅもくざめ 09/15(金) 21:06 pqAQSlLD0 [sage] 
幼い頃、小学生位だろうか。 

東北の日本海側に面した地方で経験した話だ。 


小学生の頃、夏に祖母の家へ泊りに行くのは通例だった。 
全く東北だと言うのに夏は暑く冬は寒い、そういうところだ。 

近くにと云っても小学生の時分にしたら相応の距離があるが、山がある。 
いや山だったと云えるだろうか。 
切り崩され小さい寺なのか神社なのか判別つかぬものが建っている。 
丘と云うには大きいが山と云うには抵抗がある。そう云った所だ。 

その山までの道中、井戸のようなものがある。鉄格子が嵌り何とも厳しい。 
腕を通すくらいの隙間はあるので良く其処からカジキの様な魚を取って遊んだものだ。 

蝉を捕りにその山に行くことがあった。 
途中井戸を見た。 
台風が近づいていたからだろうか、井戸が濁っていた。台風に影響されるものなのか。 
しかし、台風が近づいてるとは云え陽の光に労わる気持ちはないようだ。 
汗をたまの如く掻きながら聞いた話を思い出した。 
祖母が云うには未だ自分が幼い頃熊がその山で息絶えていたことがあるという。カラスが群がり何事かと思ったそうだ。 
又隣には貯水池がある。水草が繁茂しそこに入水した仏は草に絡まりあがってこない。そう云っていた。 

山が見えた。 
山に入ると何時もと違う。やたらに静かだ。入り口からは蝉の声が聞こえるのに、その小さい山の中は 
暑さを忘れるくらいに静かだ。 
階段を駆け上がり寺か神社かもおぼつかないモノにお参りをした。 
少ししてから蝉の声が山を満たした。何故それを不思議に思わなかったのか、今は不思議でならない。 
帰る途中にまるで角が付いたような棘を2本突き出している木の実を拾った。 

その日は疲れていたようにも思うが家に帰ってから寝るまでの記憶があやふやだ。 
だが見た夢を未だに覚えている。 

まるで遠足のように引率者と思われる者と、子供の集団が山の険しい路から沢に降りてくる。 
自分もその中にいるようだ。石なのか階段なのか、まるで階段抜かしでもするように沢に下りてくると 
靴の中に水が染みるのを感じ、胸の辺りから水を被った。・・・・やけにリアルだ。 
笑う引率者は何やら座頭虫のようなモノを見つけその説明をしていた。 
沢から起き上がると沢を越えて又山に入る一団に目を向け、沢に礼をした。 
その礼が特殊なものだったのか引率者が何処でソレ聞いたのかと問い質してきた。 
如何なるものなのか――――そこで目が覚めた。何故か胸を掻きたくなるくらいに懐かしくなった。 

又山に行く途中井戸を見た。他の水は濁っているのに井戸の水は澄んでいる。だが魚が一匹も居ない。 
山に入ると何時も通り蝉の奏でるけたたましい音が満ちている。 
不意に足元に目をやると昨日と同じ木の実が落ちていた。 
祖母の話では最近虫取りをする子供も少なくなり山に入る者も自分以外殆ど無かったそうだ。 
不意に考えがよぎった。随分と小さくなった山を宿にしている何かが、夢の中に出てきた子供の歓声の様に久々に来た 
子供の騒ぎ声に何か懐かしさを感じたのだろうかと。――――どうやら、この山にもまだ主が居るらしい。 
今でも偶にその夢を見る。 



141:たぶんカジカの間違いだよね 09/15(金) 21:25 5yFOY7Dm0 [sage] 
>>139-140 
乙。 
揚げ足をとるようで悪いけど、井戸のような池でカジキを捕るのは無理だと思うな。 
http://www.kudan.jp/EC/mokuroku/photo/kajiki.jpg



142:しゅもくざめ 09/15(金) 21:48 pqAQSlLD0 [sage] 
カジカですね。申し訳ない。 
カジカとカジキ両方ともカジキと呼んでいるのは多分家だけでしょうねw; 
因みに魚はヨシノボリとツチフキの合いの子みたいな魚でした。 

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