青黒い痣
255 名前: North-East (旧3DOカーニバル) 2006/01/01(日) 07:01:03 ID:tiOaUxWT0
年が明けたからあげるね、ageましておめでとう!
はじめまして、N.Eです。山怖に書くのは初めてなり。
徒然なるままに書き散らしたオナニー文、とくとご覧あれってか。
私の友達の友人の知人の知り合いの話。
彼の後輩君は夏のある日に登山パーティーに参加することになったため、準備に余念がありませんでした。
ダンスを誘われたときのために最新のステップを夜遅くまで練習していると、
部屋に彼のおばあさんが来て「嫌な予感がするから、お守りにこれを持っていけ」と
ピンクのリボンがついた園芸用のハンドスコップを手渡してくれました。
彼のおばあさんは昔から「霊感ばあさん」と呼ばれていまして、
そう、以前から実際の歳よりふけて見られていたのですが、
そのおばあさんの霊感を無視したために、彼は何度も痛い目に遭ってきました。
なにしろおばあさんは大学時代は女だてらに空手部の主将をしていまして
岩のように硬いこぶしをしていたからです。
今度も、受け取るのを渋る彼を見て「はあぁ~」と自慢のこぶしに息を吹きかけるので、
彼はいやいやながらもハンドスコップをリュックの中にしまい込んだのでした。
さて次の朝ですが、前の晩の夜更かしがたたったのか、二時間も寝過ごしてしまいました。
これは変態、いや大変だとあわてて飛び起きると、
待ち合わせ場所にはもう間に合わないから直接に山小屋へ行こうとタクシーを止めました。
「すぐに〇〇山の山小屋に行ってくれ、チップをはずむから」と言うと
「よしゃ、ガッテン承知のスケだ(死語)」と言って運転手はタクシーを降りようとします。
「おいおい、俺を置いてどこへ行こうとするんだよ?」
「いえね、山小屋までひとっ走りに」「俺をタクシーで乗せていけってぇーの!」
タクシーはものすごい勢いで藪をかきわけながら斜面を登ると、あっという間に山小屋に到着してしまいました。
「もう着いたの? タクシーで山小屋に行けるなんていい時代になったものだな」と感心していると、
ふとヤングジャンプで連載している「タフ」でスーパーカーで山の上まで登ってしまう鬼の人のことを
思い出しました。「もしや、あなたは・・・」
だが彼が問いかけるより先に運転手は「さらばだ青年よ」と言って凄まじい速さで斜面を下って行ってしまったのです。
「タクシーの当たりはずれは良く聞く話だけど、あれは当たりだったなあ・・・」と彼が感心していると
そこへ先輩と友人たちの五人が汗だくになりながら藪の中から出てきました。
「お、おまえ、出遅れたと思っていたら、先回りしてきていたのか」
「え、ええ、日ごろ鍛えていた健脚にものを言わせたんですよ、テヘッ」
彼らが山小屋に入ると急に雲行きが怪しくなり、しとしとと雨が降り始めました。
雨は次第に激しくなり、いっこうに止む気配を見せません。
その日は山小屋で夜を過ごすことになりました。
其の夜のことです。
ぐっすり眠っていた彼は胸を強く抑え付けられるような不快さを感じて目を覚ましました。
あたりはまだ真っ暗な夜で、闇の中で目を凝らして辺りを見回すと、先輩たちの姿が見えません。
そしてどこからともなく「おーい・・・おーい・・・」とかすかな声が聞こえてきます。
彼はお守りのハンドスコップをリュックから取り出すと
声のするほうを目指してふらふらと山小屋の外へ出て行きました。
すると小屋の裏のほうで先輩と友人たちの五人の姿が夜の闇の中におぼろに浮かんで見えました。
彼らはひとかたまりにしゃがみ込んで何かをしていました。
そして相変わらず、かすかながら「おーい・・・おーい・・・」と言う声が聞こえてきています。
彼は先輩たちのそばに近づいて「みんな、何をしているの?」と声を掛けると、
先輩は振り向きもせずに「掘れない・・・うまく掘れないんだよ・・・」と答えてきました。
彼らは輪のように丸くしゃがみ込んで、素手で地面を掻き分けていたのです。
そして良く見ると彼らの指は皮がぼろぼろに剥けて爪が割れて、血がにじんでいました。
それでも彼らの掘った穴はせいぜい人の足のくるぶし位の深さにしか達していませんでした。
それを見て、いまこそおばあさんから渡されたハンドスコップが役に立つときだと思った後輩君は
「僕が掘ってあげるよ」と言うとみんなの輪の中にはいってざくざくと地面を掘り始めました。
素手で掘るのとくらべものにならない速さで穴が深くなっていきます。
いったいどれほどの時間をかけて掘り続けたのか、穴は後輩君がすっかり隠れるくらい深くなりました。
その時ふと後輩君は気づきました。
かすかに聞こえてくる「おーい・・・」と言う声が、彼が掘っている穴の底から聞こえてくるということに・・・
まさかと思い、掘る手を休めて聞き耳を立てていると、声が次第に大きくなって穴の底から聞こえてきます。
「おーい・・・おーい・・・」
そんな馬鹿なと思いながらがたがた震えていると、今度こそはっきりと聞こえてきたのです。
「おーい! 見つけたぞ!」
そして声がするのと同時に穴の底から何本もの人間の腕がずばっと突き出してきて、
彼の両腕をがっしりと掴みました。
其の腕たちは万力のように掴んで離そうとせず、じりじりと彼を穴の底の土の中に引きずり込んでいくのです。
彼は両腕を掴まれたまま首をめぐらして「みんな、助けてよー」と先輩たちに助けを求めました。
しかし先輩と友人たちの五人はひざを抱えて穴のふちに座ったまま、青白い能面のような無表情な顔で
この有り様を見ているだけで、誰も手を貸そうとはしてくれません。
とうとう彼の両腕は凄まじい力に引っ張られたまま地面の中に見えなくなり、
顔までもがゆっくりと土の中にめり込み始めました。
彼は悲鳴をあげ続けましたが、いつの間にか気を失ってしまったのでした。
さて、彼が目を覚ますと、そこは病院のベッドの上でした。
ベッドの両脇に白衣の医者と制服姿の警官がいて、
彼が目を開けると「気がついたかね、きみ」と声を掛けてきました。
彼は自分が悪い夢を見ていたんだと思いながら両腕を見ると、
そこにはしっかりと何者にか掴まれた手の形が青黒い痣となって残っていたのです。
それを見たとたん彼の内側からあの夜の恐怖が抑えきれない奔流となって悲鳴とともに溢れだし、
彼の身体は恐怖に動物的に反応してベッドの上からがくんがくんと跳ね上がりました。
医者と警官はあわてて彼の身体を押さえつけ、すぐに看護婦を呼びました。
医者 「早く、鎮静剤を!」
看護婦 「は、はい、えいっ、ぷすっ」
警官 「うっ、いや~んうふ~んばか~ん、そこはおしりなの、あへへ」
看護婦 「あ、間違えちゃった、てへっ」
医者 「こら、このお茶目さん!(ハアト」
医者は彼に言いました。
「きみ、その両腕の痣は怪しいものじゃないんだ、それは救助隊がつけたものなんだ!」
そして医者は彼にすべてを告げたのです。
あの日の夜、大雨によって山が崩落して土砂崩れが発生しました。
その音はふもとにまで響き渡るほどの大きいものでした。
そしてその土砂崩れによって彼らの泊まっている山小屋が押しつぶされたのです。
大急ぎで救助隊が組織されましたが、回りは急な斜面で重機を運ぶことができず、
救助隊は手作業で、雨水を吸って重くなった土砂を取り除かなければなりませんでした。
隊の皆さんはもはや絶望だと心の中では思いながらも一縷の望みをたくして、
おーい、おーいと声を掛けながら土砂をスコップで取り除いていったのでした。
そして奇跡的にも比較的に浅いところで人の両腕を見つけたのです。
土を掻き分けてきたのか、その右手には泥まみれのハンドスコップが握られていました。
「おーい、みつけたぞ!」
救助隊の人々はその両腕を掴んで必死になって、後輩君を引きずり出したのでした。
両腕の痣はそのときに付いたものだったのです。
「それじゃ、他のみんなは?」
「残念だが・・・助かったのは君だけなんだ」
あとから聞いた話では、土砂を懸命に掻き分けたのか、先輩たちの両手の指先はぼろぼろに潰れていたそうです。
彼は霊感おばあちゃんに改めて礼を言うとともに、心から先輩たちの冥福を祈ったのでした。