親父が何の仕事やってるか

468 :本当にあった怖い名無し:2011/09/13(火) 23:00:32.15 ID:BajwGqyp0
小さい頃俺はイジメられてた
原因はほんと些細なこと
クラス全員サラリーマン家庭
うちは、親父が何の仕事やってるかよくわかってなかった
最初はペンペンが俺のあだ名になった
先生が、昼間っから何もしていないような大人になるんじゃないぞ
そんな奴の家の庭にはぺんぺん草も生えないからな
こんな話をしたからだ
けれどペンペンはかわいすぎるということになり
最後は便所になった
俺はそれでもずっと我慢してた
親父は朝早く根巻きに作務衣羽織って出て行ってたし
IQテストで150叩き出してたからか何かしらないけど
横並びでないと気が済まない烏合の衆が相手だと理解していたからだ
けれど、中学生になって以降、段々と親父の仕事が気になりだした
久しぶりに親父と風呂に入った時に陰茎の近くに大きな火傷の痕をみた
肌が全体赤らんでいて、ところどころ皮膚が縮れたような痕もある
それをじっと見ていると、親父は黙って俺の頭を撫でた

ある日、朝早く出かける親父についていこうと夜の間に準備を整えた
けれど、どうやら母親が感づいていたらしく
どこにいくかもわからないから念を入れて重装備
リュック一つにカンパンやら水筒やら防寒着やらレインコートをぎっしり詰めたものを背負い
気負い過ぎたか体ものろま
俺はたやすく母親にとっつかまった

高校になってから、親父が朝食を一緒にとるようになった
やたらしげしげと俺の顔を見るので何やら不思議
居心地の悪さも感じていたかな
反発心とかも生まれてこっち見んなとか言ってしまったと思う
ある日、いつものように朝食を囲んでいると
唐突に今日は一日俺に付き合えと言った
学校休むことになるからと断ろうとすると
いいからいきなさいと母親も親父を援護した
断られた瞬間から仏頂面になってふてくされ
けっとか毒づいたっきり背中を向けていた親父
その背中に向けてわぁったよというと
何の返事もないんだが喜んでいるのがわかった
胡座かいたまんまで体を上下に揺すってるんだもんな

単刀直入に親父の仕事を言うと、鍛冶
まず真っ先に連れてかれたのは東京
そこの八本木だかなんだかってすんごいギンギラな街並みまでつれてかれて
村の役場よりもでっかい理髪店に連れてかれて
尻子玉引っこ抜かれでもしたのか
やたらなよなよとして尻をふって歩く優男が出てきた
優男は開口一番に今日は記念だから昼過ぎまでは貸切にしていたわよ、といった
あの時は悪かったな。吐きそうになったし、顔にも出てたと思う
親父はたった一言、丸刈りと告げた
その頃俺は一年上の先輩にホの字でふっざけんなと言ってしまった
そうしたら優男が薄気味悪いしなをつくった笑顔を浮かべたと思う
あたしこう見えても芸能人相手に売れっ子のゲイ人なのよんとカマ男が断言
田舎者にとって東京の芸能人は憧れだ
親父は不満そうだったけれど何かこそこそしゃべりあったら納得したようだ
ちなみにこの内容は先生がこのイニシャルをバリカンで剃り落とすだろうという予測と俺は見ている

そして俺は生まれてはじめておやじの仕事の成果を体験した
うでの良い理髪師に握られたそれが肌をすべりながら毛だけをごっそり剃り落としていく
たちまちのうちに俺の髪の毛は電動式のバリカンで楽をしない腕利きの手によって
イニシャルの形に2cm程度の毛を残され、他は5mm位のボウズ頭と化した
地元の理髪師が安全そうな櫛がついたやつでやるのと大して速さも変わらない
あんな刃むき出しの一本の剃刀でよくやると俺の優男に対しての見る目はたちまちのうちに変わった
それから、地元に戻って、おやじの工房を見に行った

「昔、俺がプウ太郎に見えてたせいで、学校で酷い目にあったんだって?
俺とおんなじだな。俺も親父がこんなんで若い頃はよく苦労したもんだ」
そう言いながら丁寧にあれやこれやと指さして質問する俺の相手をしてくれた
特に俺が気に入ったのはあの剃刀だ
一本で髪の毛もヒゲもできる(ただし素人厳禁)
あれが何十本と並んでいて
その柄に使うのも指がふぃっとするように磨きあげた途中のものから並んでいた
親父は、職人の手に合う柄をもった刃物をつくる名人芸をもっていたと知った
とっくに高いしてた祖父がとった表彰状やらご先祖がとったなんかの文書も飾ってあった
五位とかなんとか書いてあったから
後四人は親父よかすんごいのがいるんだと笑っていったら
「馬鹿、これは昔俺たちのご先祖さまが頂いた官位だ。順位じゃねえ!」と怒鳴りつけられた

かんいってきいてその時とっさに頭によぎったのは冠位十二階のことだ
とりあえずなんか凄そうという気になって
それならなんでもっと早く仕事のこと教えてくれなかったんだよと言った
すると親父はこういった

江戸時代の先祖が正宗の贋作をあつらえた罪で死罪になった
先祖は幕府が藩主につかわすための贋作を幕府の命令で打たされていたらしいのだが
こういう贋作師というのは腕のいい新進を使い捨てにしてにするものだったそうだ
つまり名声はあるがうでのない鍛冶師が讒言まがいに名前を出して始末させるというのが常態化していたらしい
これを始めたのは徳川家康で、徳川幕府のお家芸たる家宝密造で、幕末まで続いていたのだとか
ところが、そんな沢山やってたら、仕留め損なうこともたまにはある
鍛冶の技法を求めるが余りに、石見に目を肥やしにいっていた、この鍛冶師の弟は難を逃れて
かくして我が家は現代まで残った

「うちの家のもんが打った刀はだな。それ以来どいつもこいつも血を吸う機会に恵まれすぎんだよ
それが元で妖刀の類とか言われてな。縁起が悪いってんで人気が落ちて、鍛冶師としての名前も落ちた。
銘も入れず、名乗らず、細々と家内道具をこさえるようになったわけだな
そんなばっか臭えって面すんな
まあ俺もそうだったがな」
「親父、ひょっとして刀うったことあんの」
「包丁なんてカッコ悪いやってな
親父に弟子入りした後にうで磨いて
家飛び出して店構えて美術刀を打った
材質からして人が切れるわきゃあないただみてくれだけのナマクラだったはずなのさ
ところがこの中に曲者が混じっててな。最初はどこぞのデパートの経営者一族だかってやつの依頼でこさえたもんだった
どこぞのやくざが溜め込んだっての中に、威嚇用だろうなあ。刃を研ぎ上げた状態で混じってたのさ
ところがだ、歯がぎざぎざになってる
写真でみてもありゃ相当使ったかんじだった
でかいヘマしでかした子分を破門する時
小指落とすときに実際使ったことがあるってらしくて
実際に古い血痕がちょっぴりみつかったそうなんだよ
裁断機にかけてやったほうがよっぽど楽だったろうな」

「…親父が仕事名乗れなくなったのって」
「当時は都のハズレに店構えてたんだよ
おれんとこに来る前にご近居で警察さんがご苦労さんにも随分熱心に俺の粗探しやってたみたいでな
殺人包丁屋とか張り紙がひどくっなっちまった
目の前の精肉店のおばちゃんが白昼堂々やってるなんて状態だったんで皆見てたんだが
俺が警察官に訴えても一緒に見た奴に頼んでも証言もしてくれなかったぜ
それで俺は気づいたんだよ
ああ、皆内心俺に出てってほしいんだなって
精肉店のおばちゃんは態度に出してくれるだけまだましさ
人間の血を連想させるような包丁屋が目の前にあっちゃ
そら肉屋は商売あがったりだろうしな
俺は肉屋のおばちゃんに礼を言って店畳んだ

得意になって美術刀なんか打ってたバチだ
そんで落ち着く先を探して転々としてだな
んでここいらの空気が気に入って
お前のばあちゃんに大家になってもらって
この工房の土地借りて
親父の包丁稼業引き継ごうかとも思ったんだが
結局昔の美術刀の傍らの剃刀鍛冶をだな
常連とその紹介のあるやつ相手だけに細々ってな」
「もしかして、それ呪いなのか」
「ばっか、そんなわけあるかよ
考えても見ろ幕府の犯罪に手を貸して口封じされかかった家だぞ
由緒ある刀鍛冶のどこどこの家柄だとは言えないだろ
名無しの鍛冶屋で通していくにゃ伝奇とかそういうつくり話は都合が良かったんだろうさ」

親父から鍛冶を習う前に親父はぽっくりと逝ってしまった
作業中に倒れて、工房の場所が場所だったもので、誰にも気づいてもらえず
帰りが遅いので心配した俺が第一発見者だった
死因は、熱中症

俺は親父の髭剃り職人を継ぐつもりでいたんだが
月命日には毎回位牌に手を合わせてくれるカマ男さんからも
師匠もいないで鍛冶は難しいわよ
理容とおんなじでかなり複雑な科学なのよ
なんてアドバイスを受けた
母親が働いて大学行かせてくれると言っていたのと秤にかけて
無茶に鍛冶を選ぶなんてのは
あの親父さんの子供として情けないわよ
そんな風にも言われた

それで俺はサラリーマンになった
子供も出来た
そしてある日
簡単な石のペーパーナイフをつくろう、という図工の課題が完成しないと泣きつかれた
何の躊躇いもなく手伝った
単純に言えば、叩いて割って、鋭利な面をつくるだけ
これが難しいらしい
だが俺はものの数分でちょうどいい具合に割ることができた
磨きをかけて丸みをつけるところは本人にやらせた
完成したそれを見て喜ぶ息子を見ながら
俺は妙な感覚にとらわれていた
ものすごく嫌な予感がしていたのだ

この石のペーパーナイフ
結論から言えばその切れ味は人肉を割った
観賞用の柔い素材で法的にも問題のなかった親父の美術刀
それが小指を落としたのと同様に、今でも、信じられない
あまりの出来栄えの良さに図工の先生が褒めちぎりつつ
本人さえよければ、後輩たちにも、このナイフを見せたいと頼んだらしい
息子は相当惜しかっただろう
普段から図工の先生が図工のはじまる時間に
図工はズッコウケとか変わった挨拶をして
面白い先生だと言っていたから、相当大好きだったんだと思う
だから先生の頼みだからとうんといったそうだ
自分が少し寂しくても、好きな相手の喜ぶ顔を見る為に大事なものをあげるという育ちぶりには感動したものだ

しかし、美術室に飾られることとなったそれは
あろうことか他の荷物を取り出そうとした際に落ち
ひろおうとした先生がよろけ、その上に倒れこんだことで
先生の腹部を軽く抉り、血を知った
尚、図工の先生はますますこの石のペーパーナイフを気に入って
ナイフと名前つくものを使う時、危険性を説く教材として、子供たち相手に活用しているらしい

彼のこの機転を経て、俺がつくってしまった凶器は人の役に立っている
けれども、親父には悪いが、これは、やっぱり呪いだと思う
息子が中学にあがったあと、製図の授業で椅子をつくるとき
かんなの刃を研いだらしい
ところがこのかんなの刃も
あまり自分のが切れないから、息子のを貸りた
息子の友人の手に怪我を負わせた
使ったあとの刃を洗って返そうとしたときにうっかりというが
俺にはどうにも呪いにしか思えない

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