あんたには『過去を変える』能力がある
754 :本当にあった怖い名無し:2011/08/06(土) 02:28:43.20 ID:0dQx8Kil0
一人の男が居た。男の名は語られなかったが、年齢は30代前半だと言う。
男は人生で失敗し、さらにそこに重なる不景気や大災害などによって、
自分の未来に絶望し、自ら命を絶とうとしていた。
男は死の方法に電車による轢死、即ち飛び込みを選んだ。
普段、人の居ない駅で、電車が来ると同時に線路に飛び込もうと考えたのだ。
そして決行の日。寂れた駅に男は入っていく。
ホームには男と、そしてどこか異様な雰囲気を放つ老人が一人だけ居たのみで、他はがらんとしていた。
男が電車を待っていると、突然、男はその老人に声をかけられた。
「あんた、素晴らしい能力を持っとる。あんたには『過去を変える』能力がある。
"未確定の未来"を変えることなら誰にでも出来るが、"確定しちまった過去"を変えることは普通はどう足掻いても出来ん事じゃで。
過去を変えたかったら、『過去を変える』と念じながら、自分のその命、断ち切ってみるがええ」
普通の人間ならば呆れる前に、耳も貸さないような話だろう。男も初めはそうであった。
だが、しばらく考えてみる。どうせ死ぬなら、この老人の言うとおりにやってみてやろう。
これで『過去を変える』なんて事が―出来るとは信じてないが―出来たならば儲けだ。
男は、中学生の頃に戻りたかった。あの頃ならばまだなんとか人生の軌道を修正できたかもしれないからだ。
そうして男は、『過去を変える』と念じつつ、線路に飛び込んだ。
目を覚ますとそこは自室。眠っていたのか、夢だったのか。
ふと日付表示機能付きの時計に目をやる。
すると驚くことに、そこには線路に飛び込んだ日の前日の日付が表示されていた。
男は歓喜した。一気に中学時代まで遡る事こそ出来なかったが、確かに過去に戻れている。『過去を変える』ことが出来ている。
男の能力はこうだ。『自ら命を絶つことで、命を絶った日の前日にタイムスリップすることが出来る』。
男は、その後、数え切れないほど死んだ。
ジェットコースターに一度乗ってしまえば怖くなくなるように、過去に戻る為ならばもはや死など痛くも怖くもなかった。
そして遂に男は中学生時代に戻ることに成功した。
懐かしい匂い、雰囲気、感覚。これは確かに中学生時代だ。夢でもない、現実だ。
男は希望に満ち溢れていた。失くした人生をこれから取り戻そう、と意気込んでいた。
だが、しばらくして、男は老人の言葉を思い出して、恐ろしい事に気付いてしまった。
男は、遥か未来から何度も何度も死を繰り返すことで、過去に戻ってきたのだ。
もはや男には"未確定の未来"など存在しなかった。

