道路脇の植え込みを覗いている

487 :本当にあった怖い名無し:2009/09/29(火) 14:38:23 ID:xaMeDikK0
毒女板から誘導されてきました。よろしくお願いします。

一ヶ月前に今の住所に引っ越してきました。引っ越す前の地域には12~13年住んでいました。
引越しの整理も終わり、普通の生活に戻れた記念に投下します。
これは、前の住所(12~13年住んだ場所)に移ったばかりの頃の体験です。

地下鉄の駅があるその街に移ってきて、多分2週間目くらいだったと思います。
駅から家までは徒歩で10分程度。途中で一箇所だけ信号のある交差点を通ります。
それ以外の道は広めの路地といった感じでした。

その日は残業で終電近くの帰宅となりました。家の最寄駅についたのは深夜です。
駅を出てそばのコンビニで弁当を買い、家路を急いでいました。

5分ほど歩くと信号のある交差点に差し掛かります。
それ程大きい交差点ではありませんが、夜中でも信号と街灯で明々と照らされています。

歩行者信号が青であることを確認し、左右を見て前方に目を向けると、
交差点の向こうに一人の女性が居ることに気付きました。
中腰のような姿勢で、道路脇の植え込みを覗いている様子でした。
少し体を揺らしながら、下の方を覗き込んでいます。
多分落とした何かを探しているのだろう、と思いました。

疲れた上に空腹の私は早く家に帰りたかったので、その女性を全く無視して通り過ぎようとしました。
白いシャツに黒っぽい(柄があったかもしれません)スカートのその女性は、
ずっと植え込みを覗き込んでいるような格好です。
背中しか見えませんでしたが、通り過ぎようとする私にも気付かないようでした。

女性をやり過ごし5~6歩離れたかという辺りで、私のつま先が何かを弾いた感触がしました。
同時にチャリン、と軽い金属音がしたのです。
何だと思って、自分の足元から動いた小さな物体を目で追うと、どうやら鍵のようです。
少し古いタイプの、家の玄関に使われるような鍵でした。金属のリングがついていました。

ああこれか、きっとあの女性はこれを探しているんだ、と私は思いました。
そして2~3歩先に滑っていった鍵に追いつき拾い上げました。
少し冷たい触り心地のする鍵を手のひらに乗せて、女性の方に振り向きました。
その女性はまだ植え込みを探しているようでした。

「もしかして、探しているのはこの鍵ですか?」
鍵を差し出しながら女性の背中に話しかけました。距離はだいたい5mくらい。
女性はゆっくりと頭を上げ、少し背筋を伸ばしました。
でも、またそのまま背中を屈めて頭を下げ、何かを探すような態勢に戻りました。
そして、振り向きもせずにこう言いました。
「いえ、私が探しているのは指輪です。この辺りで失くしてしまったんです。」

「そうですか。失礼しました。」
私はそう答えた後、失敗したなあと思いました。
やれやれ、これは困ったぞ
話しかけてしまったからには探すのを手伝わなければならないかな
このまま立ち去るのも勇気がいるな
なんとかそっと立ち去れないものだろうか
指輪が見つかれば話は早いのだが
指輪って、そう簡単に落としてしまうものか
などと、一瞬のうちに色々な考えが頭をよぎりました。

そーっと立ち去ろうか、と私が振り返り女性に背を向けたとき、
反対方向から自転車が近づいてきたのに気付きました。
夜の遠目でもはっきり判る、お巡りさんでした。白い自転車に乗っています。
そのお巡りさんは私たちのことを気に留める様子もなく、すれ違おうとしています。
私は咄嗟に声を出しました。
「あ、あのー!!」

そのお巡りさんは自転車を止め、私の方に振り返りました。
「何でしょうか?」
お巡りさんは、ちょっとびっくりしたような表情で話しかけてくれました。

私は手に取った鍵を見せながら、
「鍵が落ちていたんです、ここに...、ええっ!!!!」
自分の手の中をみて驚きました。さっき拾った鍵がありません。確かに手に持ったはずなのに。

「あれっ!あれっ..どうして...、どこに..」
足元などを見回してもありません。
落としたような音も聞いていませんし、何よりもほんの今まで持っていたはずなのです。

「あれっ!あれっ!」などと挙動不審な私に、お巡りさんは困ったような口調で
「どうかされましたか?」
と話しかけてきました。

軽いパニック状態の私は慌てて、
「いや、あのそこで鍵を拾って、で、そちらの方のかと思って..」と女性の方を振り返ると..。

そこには誰もいませんでした。無人の交差点が街灯に照らされているだけでした。
お巡りさんも「え、誰のこと?」みたいな感じできょとんとしています。

さっきあの女性の姿を見たのは、ほんの十数秒前のはずです。近づいてくるお巡りさんからも見える位置にいたはずです。
でも、交差点の周囲を見回しても、あの女性はいません。誰もいません。

心臓がバクバクと音を立てて頭がカーっと熱くなり、
立っていられなくなった私はその場にしゃがみこんでしまいました。
それから先は記憶がボーっとしてて、よく覚えていないのですが、
私はかなりのパニック状態だったと思います。
お巡りさんが私を揺すったり、いつのまにか応援のお巡りさんがいたり、
私の話を色々聞いてくれたり、連絡先を念入りに確認されて、
最後には自宅マンション前まで送ってくれたり、などなど。

それ以来、しばらくの間はあの交差点を通るのを避けるようにしました。
特に夜は遠回りをして、あの場所は通らないように。
でも月日が経つとその恐怖も薄れて、普通に通るようにはなりましたけど。

あの女性が誰だったのかはいまだにわかりませんし、あの鍵が何だったのかも判りません。
でもあの声は今でも耳に残っています。指輪はみつかったのでしょうか....。

以上です。長文失礼しました。
ずっと溜めていたものを吐き出せた感じがします。少しすっきりしました。
毒女板に帰ります。ありがとうございました。

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