いもうと

816 :1:2009/09/13(日) 16:22:15 ID:W9B32VyD0
あの…流れ切るかもしれないんだけど

俺の家にいもうとが居て
いもうとと言っても人間じゃなくて、何か赤ん坊くらいの大きさがある
照る照る坊主みたいな奴だった。
下の方のスカートみたいな部分を丸く結んだ感じ
まあつまり「i」みたいな形の奴。
それを母親はいもうと、と呼んでた。
俺がずっと小さい頃からそうだったから、幼稚園の頃まで俺は
「あれ」が妹なのだと思ってた。
幼稚園にいる他の子で、「妹がいる」と話す奴が居ると、
「あいつの家も「あれ」があるんだ」と思っていた。

俺の家の「いもうと」は食卓に座ったり、ソファに腰掛けたり
家族として扱われているようだった。食事時になると母がそれを
椅子の上に置いたりしてた。
そして「いもうとが置いてある」みたいに俺が言うと
母はいつも怒った。「座る」じゃないと駄目らしかった。

ある日、幼稚園で何かの拍子に「妹」は普通「人間」だと知って、
母に尋ねた。「あれはいもうとじゃないよね?」みたいな風に。
そしたら母は猛烈に怒った。ふざけるな、何を言ってる、
あれは絶対「わたしたちのいもうと」なんだ、と。
後から考えると変な言い方だった。「わたしたちの」
こっぴどく叱られた後、それでも懲りず父親に同じ質問をした。
そしたら今度は普段元気な父が
何か言いたいが言えない、みたいな顔になって、何も言わずに部屋にこもり、
丸一日出てこなかった。

小3の時、父が死んで三日もしない内に
母親と一緒に近くの山へ車で行った。
見晴らしのいい、崖みたいな所で車が止まった。
いつも「いもうと」は外出しなかったけど、この日だけは車に乗ってた。
母は車からいもうとを降ろし、あんたはここに居なさいと言う。
何をするのかと思ってたら、いもうとの首と胴体がくびれてる部分を
ばちん、とハサミで切って投げ捨ててしまった。
母はいつもいもうとを大切に扱ってたから驚いて、「いいの?」と訊くと
「おとうさんが死んだから、もういいの」と言われた。

それから、母との間で「いもうと」の話は一切出なかった。
あれは一体何だったのか尋ねようとしたけど、先延ばしにしてたら
去年母が死んだ。
この話、友人に話しても何が怖いのか訊かれる。俺自身は結構怖い。
何かの宗教とも思えないし…。何か解る人いない?いなさそうだけど。

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