理髪店

346 :本当にあった怖い名無し:2009/09/06(日) 12:01:13 ID:vJgM3jJg0
ちょっとだけ怖い話。

大学生の頃、夏休みに埼玉の母方の親戚の家に法事で行ったときの話。
もう10年以上前の話だ。
埼玉といっても大宮やさきたま市といった都会ではなく、群馬に近い方の田舎町に親戚は住んでいた。
翌日の法事を前に、ちょっと散髪でもしようと思い、ぶらぶら理髪店を探していた。
しかし、こういう田舎町、なかなか見つからず、結局、駅前に出て探すことにした。
駅前には確かに数件の店があったが、どこも順番待ちの状態で、夕食までに戻る必要から他を探していたら、4階建ての寂れた駅ビルに理髪店の小さな看板を見つけ、客もいないようなので入ったんだ。。。

理髪店は地下にあって、自然の光は入らない、店は蛍光灯を多めに設置してあり白色光がちょっと不自然にまぶしいくらいに輝いていた。
また古いビルなので今と違って空気の流れなど考えておらず、地下倉庫の中で営業をしているイメージ。
換気扇はがんがん回っているが、明らかに空気は対流しておらず入っただけで体全体がいやな感覚に襲われた。
店には、太ったマネージャー(MR BOOのサモハンキンポー風)と従業員がなんと7-8名いた。
客は俺以外は一人だけ。
やばいと思ったが、マネージャーが笑顔を席を勧めるものだから、「まあ、いいか」と観念、切ってもらうことにした。

しかし、担当したのは、どうも新人のようで不慣れな感じがした。
もう、こうなったら要求だけ伝えて、あとはもうどうにでもなれと目を瞑って、まな板の上の鯉状態。
後悔しきりで、早く終わってほしいと考えていた。
何度か目をあけて仕上がりをチェックし、指示しながら、無事整髪を終えた。
思っていたほど悪くなく、まあまあの仕上がり。
別の客は整髪を終えて帰り、残るは俺一人。あとは顔ソリを残すだけ。。

顔ソリの時に、担当が女性に代わった。
店の人が、「キヨミちゃん」と呼ぶ、俺と変わらない年頃の小柄な女性だった。
キヨミちゃんも同じく経験が短く、不慣れな感じがした。
かみそりを使うので、不安な気持ちになったが、客商売だから大丈夫と言い聞かせて、流れに任せることにした。
顔ソリの途中、目を瞑っていたら、なんか周りに人の気配を感じた。
薄目を開けたら、なんとキヨミちゃん以外に、従業員が2名当方を覗きこんでいた。
無表情。気持ち悪くなって、また目を閉じた。
そして次ぎに薄目を開けたら、覗きこんでいる人が4名に増えていた。
なんだ、これは??。。。

理髪店でこんなに緊張するのは初めて。
その内に、顔の上部、眉毛の周りを剃っている時に事件が起こった。
周りで俺を覗きこんでいた従業員の一人が何かトラブルがあったのか、マネージャーから大声で呼ばれたんだ。
あの人なつっこい笑顔からは想像できないほど、太く、大きな声で。
その声に俺は驚いたが、顔そりの途中だから反応しなかったが、顔そり途中のキヨミちゃんが、一瞬ビクッと動いた(感じがした)。。

そしたら、眉間の間にチクッと痛みを感じ、眉間の間の皮膚が縦方向に長さ1cm、幅ほんとに1ミリ程度に、薄皮がはがされてしまった。
俺は「痛い」と叫び、顔そりを中断。キヨミちゃんと呼ばれていた女性は平謝りで「すみません、すみません、大丈夫ですか?」と動揺しつつ傷の手当てをしてくれた。
俺を除きこんでいたと思われた3-4名は、傷の手当てをしてくれるわけでもなく、いつの間にか俺の周りから離れ、掃除をしたり、別の仕事をしたり。。
「私は無関係」といった態度だったんだ。
「なんだ、この店は」と憤慨したが、マネージャーが飛んできて詫びがあり、傷もまあたいしたことがないので許すことにしたんだけど。
でも、本当に怖かったのは、そのあと。。。。

理髪は最終段階、ドライヤーとなった。
ここで、また担当が変更し、俺の顔を覗きこんでいた従業員の中の一人が出てきた。
この時点でもう早く店を出たい気持ちで一杯。
いつまでも理容師と信頼関係が築けないのは、本当につらいことだ。
そのとき、他の従業員が小声で話ししているのが聞こえた。
「キヨミさん、大丈夫かな?」。
大丈夫かな?ってなんだ、俺のこと心配しろよと思ったが、回りを見るといつの間にか、マネージャーとキヨミちゃんが居ない。
どうも二人で奥に引っ込んだようだ。
普通に居なくなったのら、別に問題はないが、「大丈夫かな?」というのはどういうことだ。
あのマネージャーの笑顔、接客と怒鳴り声、愛想のない従業員、キヨミちゃんのミス(といってもマネジャーが悪いのだが)、ころころ変わる理容師。会話のない静かな店、よどんだ空気、蛍光灯の不自然な明かり。。。   

ドライヤーが終わり、ようやく解放される時間が来た。もう2度とごめんだ。
明日の法事は絆創膏付きででることになるかも知れない。
精算のためカウンターに行く時、後ろでドスンという音がしたように思った。
従業員が精算のため店長を呼びにいき、奥の控え室に入った時にまたまた声が聞こえた。
「大丈夫ですか?」
心の中で、「大丈夫ですか?」ってどういう状態なのかと思った。

マネージャーが笑顔で出てきた。「本当に済みませんでした。」とお詫びがあり、料金を1000円引きにしてくれた。
俺は、キヨミちゃんが責められていたのではないかと思い、奥が気になって仕方がなかったが、その店を後にした。

あのマネージャーはきっと見た目と違う性格を持つ人間なんだと思った。
暴力的なのかは今は分からない。
結末は見ていない。
しかし、人は見た目では判断できないという気持ちを強くもったことは事実だ。
ひと夏の「人は怖い」という体験でした。

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