短冊のようなもの

135 :1/3:2009/05/05(火) 03:13:36 ID:S5Fvvh3k0

心霊現象ではないんだけど、不気味でわけのわからない体験だったので書き込んでみる。

20数年前、小学校高学年のころ、仲のいい友人二人と休日に地元のショッピングセンターに
遊びに行った。行きはバスを使ったが、帰りは天気もいいので歩こうということになり、
子供の足で40分ほどの道のりを歩き始めた。学区内でしか行動しない私達にとっては
初めて歩く道のり。道はやがて中心街から外れ、小さな町工場や工務店が並ぶ地域に差しかかった。

おしゃべりしながら歩いていると、友人の一人が「あれ何だろう?」と声を上げた。
見ると、一本の街路樹の根元に短冊のようなものがたくさん突き刺さっている。
好奇心旺盛な子供だった私達は、興味津々で街路樹の周りを取り囲んだ。

短冊状の物は、薄い木の板で出来ていた。よくあるアイスの棒のような感じ。
それが街路樹の周りに無造作に、全部で30本くらいぶすぶすとつき立ててある。
短冊には全部、黒いマジックで名前のような文字が書いてあった。
(なにぶん昔のことなんでその名前を正確には覚えていないのだが、
大体似たような雰囲気を持つ名前を以下に再現してみる。但しこれは
あくまでも私の創作で現実の名称とは関係ない)

こんなようなことが書いてあった↓
『闇の魔導師ボジョルム』
『光の白剣士サイルーク』
『漂泊の吟遊詩人オロック』
『琥珀宮の姫ナディーン』
『魔法薬の売人バジュルス』
『虚空の魔法使いラズロ』

・・・・・・・・・・・・・などなど、こんなことが書いてある木の札が約30枚ほど。
私達は、思わず顔を見合わせた。

「これ何?」「子供のいたずらかな?」「でも・・・子供の字じゃないよ」
そう。黒々とした大人の書く文字。筆跡からなんとなく男性のもののようだった。
今でこそハリポタやゲームの影響で、ファンタジーは一般の人のあいだでも
普通に受け入れられているが、当時はまだサブカルチャーは子供のモノというような
風潮だった。だから、こんなサブカルっぽい空想を大人が、人に見えるような場所で
堂々と晒しているということが子供だった自分達にはかなりもの凄いことに思えた。

よく街路樹の根元に目の前の家の人が勝手に花を植えたりしているけれど、
花の種の名前にしてもあまりにも酔狂なネーミング・センスだった。それに、
このあたりは小さな工場や事務所ばかりで人の住んでいるような家は見当たらない。
しかも名札が立っている街路樹のまん前には、生コンの工場があるだけだ。

私達は、この不気味な名札の正体について思い思いに意見を出し合った。
「ペットの名前じゃない?インコとかさ」「こんなにたくさん?死にすぎだって」
「金魚か虫とかじゃないかな?」「それにしてもペットにつける名前じゃないよ」
「なんかこのサイルークってのが主人公っぽいね。そんで魔導師が悪役かなあ」
SF系のマンガ・アニメが好きだった私達3人は、ネーミングの
意味を面白半分に想像してその場で盛り上がった。

そのうち、一番無謀な子供だった私が「なんなら掘り返してみようか」と
短冊の一枚に手をかけた。すると、友達の一人が「やめなよ!」と、かなり
強い口調で止めに入った。その子は「だって・・・ペットの死骸が出てきたら
どうするの?」とちょっと青い顔で言い足した。
それは嫌だな、と思った私は渋々発掘を諦めることにした。やがて、
もうひとりの子が「ねえ、もう帰らない?」と真剣な口調で言い始めた。
正直もうちょっとこの謎を解明してみたい気分だった私は、このまま
帰ってしまうのは勿体ないと思っていた。だが、その子の次の言葉で
我にかえった。
「だってさ、もしこの札を立てた人が、今この瞬間も
どこかで私達のことを見てたらと思うと・・・怖いよ」

私達は思わず辺りをキョロキョロと見回した。目の前は生コン工場。
他は工務店や町工場ばかりで、時おり車は通るが休日のためか
人影はいっさい無い。だが、もしどこかの建物の窓から、この札の
持ち主がこちらをジッと見つめていたら・・・そう思うと、途端に怖くて
たまらなくなった私達は、子供らしくギャーギャー悲鳴を上げながら
猛ダッシュでその場を立ち去った。

次の日私は、学校で件の友人二人に、もう一度あの場所に行ってみないかと
持ちかけたが「あまりにもキモチ悪すぎるし、関わるとやばいような気がする」
と言われて断られた。あれから二十数年、あの場所がどうなっているのか
あれは何だったのか、自分が引っ越してしまったこともあり、いっさいは謎のままだ。

長文失礼しました。

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