夜食を差し入れ

545 :1/2:2009/04/10(金) 22:14:40 ID:0p+bERc9O

引っ越し記念に一つ。

高校生の頃、テストの前日は必ず徹夜してた。
日頃少しずつしとけば良いのにと毎回後悔しつつ、夕方の6時から次の日の朝までぶっ続けで。

ある試験前夜、俺がいつものように自室で勉強していると、ギシ…ギシ…と階段を登る音がする(俺の部屋は二階)。
時間は夜中の2時。
足音はゆっくり此方に近付いてきて、俺の部屋の前で止まった。
「○○君、カップラーメン食べる?」
母の声だった。
頭を使うと腹が減るからと、試験期間中はいつも夜中になると母が夜食を差し入れてくれていた。
「ごめん、いらない」
いつもなら喜んで食う所だけど、その時の俺は断った。
何故なら翌日の試験が日本史と世界史という暗記系の科目だったから。
正直トイレに行く時間も勿体なくて、その日は水さえ飲むのを自重してた。
足音が遠ざかり、また階段をゆっくり降りていく。

そして午前3時を少し過ぎた頃。
再びギシ…ギシ…と階段を登る音。
さっきと同じに、足音は廊下を渡って俺の部屋で止まる。
「○○君、お茶漬け作ったけど食べる?」
母の声。
「ごめん、いらない」
断る俺。
ちょっと苛々してきてたから、不機嫌な声だったかもしれない。
母は黙って階段を降りていった。

更に時間は過ぎて午前6時。
空が徐々に白み始め、雀もチュンチュンと鳴き出した。
そこでやっと勉強が一区切りついた俺は、一時間程仮眠して一階に降りていった。
台所では母が朝食の準備をしている。
「母さん、昨日は夜食断ってごめん」
「え? 何の事?」
俺は固まった。
「だって昨日、二時と三時に俺の部屋にきただろ?」
「行ってないよ、昨日は十二時前に寝たもの」
俺プチパニック。
母と同じ寝室で寝てる父も、母はずっと隣で寝てたと証言。
更にパニック。
考えてみれば確かにおかしい。
夫婦の寝室は二階にあるけど、あの足音は一階に下りたきり戻ってきてない。
じゃあ昨日のあれは誰だったんだ?
あの時ドアを開けてたら、俺はどうなってたんだ?

以来、俺は明け方まで勉強する時は、廊下と階段の蛍光灯を点けっぱなしにして、部屋のドアは全開にしておくようになった。
母に聞いた所、やっぱり実家には何かいるらしい。
害はないって言ってたけど、やっぱ気持ち悪いって。
この春から大学生になって一人暮らしを始めたから、もう関係ないけどね。
でも、日頃からコツコツ勉強する癖だけはどうしてもつかないなー。

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