背後に髪の長い女

713 :1/2:2009/02/27(金) 16:33:22 ID:tdSDQldq0
知り合いの体験談。

大学生の頃、いつもの満員電車にウンザリしながら、当分開くことのないドア側で外に体を向けて乗っていたところ、
いつから居たのか自分の背後に髪の長い女が居ることに気付いた。
時折窓に映る姿では、顔や衣装はハッキリと見えないが、自分と同年代程度の年齢ではないかと思った。
その女は自分の背中に顔を埋めるようにピッタリとくっつき、両手を当てた状態で車内の混雑に押されていた。
胸が当たるのを避けているのだろう。その時はそんな風に考えていた。

駅に着く度、乗客の入れ替わりで車内は揉みくちゃにされ、自分の側にいた乗客が何回も入れ替わるが、
その女はずっと自分の背中に張り付いている。
他の乗客に押され、女越しにすごい圧力が掛かることもしばしばで、その度に女はモゾモゾと動き、
周りの圧力に耐えているようだ。

大きな駅に着き、乗客がドッと降りると、車内の混雑も幾分解消された。
再び電車が走り出し、ホッと一息つく。
ガラスへの写り込みには、まだ背中越しに女の姿が見えた。
乗客が減り、それなりにスペースが空いているはずなのに、背後の女はまだピッタリと張り付いたまま…。
正直悪い気はしなかったが、さすがに少し変だと思い、反射越しに女を観察し始めた。

すると、地下から抜けたせいか、意識的に観察し始めたせいか、女がボソボソと喋っていることに気付いた。
ボソボソと言葉が発せられる度に、背中に置かれた手が上から下に動く。
繰り返されるその動作に、「うわぁ、池沼女か?」と気味悪く思った途端に、声がハッキリと聞こえてきた。

「なんで………なんで………なんで………なんで………」

その刹那、窓に映る女と目が合った。
見開かれた目に猛烈な寒気を感じ、バッと振り向くと、そこに女の姿はなく、
自分の慌てぶりに驚くサラリーマン達が居るだけだった。
車内を見渡しても、それらしい女は見当たらない。
何より、一瞬前まで背中にピッタリと寄り添っていた人間が、振り向くわずかの間に姿を消せるわけがない。
徐々に怖さが増してきたが、停車の振動で我に返り、慌てて飛び降りた。
タイミングが良いのか悪いのか、ここは自分が降りる駅だった。

あの女は幽霊だったのか?
しかし背中にずっと感じていた物は、人のそれと全く変わらなかった。
そしてハッと気付く。
自分はイヤホンでずっと音楽を聴いていたのに、あんなにハッキリと女の声が聞こえるのは変じゃないか…。

いよいよ怖くなり、大学へ一目散に向かい、事の顛末を仲間達にぶちまけたが、
「夢だよ夢」なんて言葉で茶化され、その日はその話題で帰るまで馬鹿にされた…。

電車には乗りたくなかったが、タクシーで帰るには遠すぎる。
やむを得ず電車で帰宅。
風呂に入って嫌なことは忘れようと服を脱ぎ捨て、鏡の前を横切った時、
背中に無数に走る、赤く腫れ上がった引っ掻き傷に気付いた…。

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