あの城へは近づくな

650 :(1):2009/02/25(水) 06:09:22 ID:2HLGxA300
ある理由から廃墟となってしまった城下町。
その奥には象徴ともいうべき古城が鎮座する。

羊飼いの少年は群れからはぐれた羊を追いかけ偶然そこを発見する。
村の者から戒めとして語られていたあの言葉を思い出しそこを立ち去る。

「あの城へは近づくな」

しかし好奇心が恐怖心に勝ってしまい、ある日その禁を破り城へ近づいてしまう…

地下へと続く長い廊下を発見し「お宝でもあるのかな?」そういう
誘惑にかられ足を進める…。

ほどなくして長い廊下に出る。両側には無数の牢獄が並ぶ。中には
誰もいないか…骸骨のみだ。
やがて突き当たりには重い扉があった。少年は意を決して扉を開けた。
むせ返るようなカビの臭気と湿気…そして独特のすえたような臭い。

眼前には重厚な牢獄があり、暗闇のむこうには何かが蠢いていた。
暗闇に慣れてくると、それの正体がはっきりする。
人間であった。それも、ひどく年をとった人間である。

牢獄で鎖につながれた老人は言った。

「久しぶりに人間を目にする…なぜワシがこんなところで
繋がれているのか、それが気になるようじゃな」

そういうと不自由なその右手でゆっくり手招きする。
少年は固唾を呑み見守るも、やがて牢獄の扉に手をかける。
老人は言った。

「おいで…。鍵はかかってないから。君にひとつ聞こう。
人間には好奇心がある。そして恐怖心もある。勇気もある。
ここに来たのだから君には好奇心と恐怖心がいっぱいなのだろう。
だが…勇気はあるのかな?」

少年は思いたったように鍵を開けると老人の前に歩み寄った。
後ろでバタンと重い衝撃と音が鳴り響く。

少年は動揺した。
老人はうつむいていた顔を上げるとこう冷たく言い放った。

「ときに過剰なまでの勇気は身を滅ぼす…。城を発見し好奇心を満たし
この牢獄の前で恐怖心にかられて逃げれば良かったものを…」

少年は慌てて周囲を見渡すと次第にはっきりと見えてきた。
おびただしい白骨の数々が。そしてその重い牢獄の扉は内側からは二度と
開くことのない構造だった…。
そして少年は次の瞬間、ここに来たことを後悔し絶望の淵へと落ちる。

老人は狂ったように涎を流し狂喜してこう叫んだ。
「疫病の間へようこそ!」

 ※「米国都市伝説「エイズのマリー」の元ネタとなった欧州の童話より抜粋

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